本誌は今号のKENZOさんへのインタビュー記事、さらには2号にわたる猪首秀明さんへのインタビュー記事など、さまざまな形で海外の無登録FX業者の利用に関する警鐘を鳴らしています。
しかしながら、ネット上には今も海外FX業者の広告や記事があふれ、利用する人も少なからずいます。そもそも海外FX業者とはどういう存在なのか? そして、本誌はなぜ警鐘を鳴らすのか? その見解を明らかにしたいと思います。
本文◉田中タスク
そもそも…海外FXとは何か?
最初に、海外FX業者について言葉の意味を定義しておきましょう。本誌が海外FXと呼んでいる業者は、海外の主にオフショア(注1)やタックスヘイブン(注2)などに拠点を置き、日本向けにFX取引サービスを提供している業者のことです。日本居住者向けにサービスを提供するためには金融庁に第一種金融商品取引業の登録をする必要がありますが、これらの業者は無登録のまま営業をしています。少々言葉は悪いですが、「モグリのFX業者」です。
(注1)非居住者向けに税金などの優遇が与えられている地域のこと。投資・取引環境を整備することで第三国同士の取引を促進し、国際金融市場としての地域確立を目指している。アジアでは香港やシンガポールなど。
(注2)税金を免除したり大幅に軽減するなどの制度を設け、海外からの投資や企業誘致を促進している地域。租税回避地、低課税地域とも呼ばれる。ケイマン諸島、バージン諸島、バハマなどが有名。
ネットには国境がなく、海外に拠点を置いて海外から日本語のサイトを通じてサービスを提供すれば、モグリであっても国内のFX会社と似たサービスが利用できてしまいます。
混同されやすいのが、外資系のFX会社です。OANDA証券や外為ファイネスト、サクソバンク証券なども、外資系企業がFXの取引サービスを提供していますが、いずれも日本に拠点を置いて金融庁へも登録済みです。外資系であっても日本の法律に則って国内FX会社と同じ立ち位置で合法的に営業をしています。
海外FXの違法性はどこにあるのか?
投資家が日本国内で海外FX業者のサービスを利用すること自体は、違法ではありません。ただし、後述しますが出金トラブルなどの問題が起きても全ては自己責任です。
これに対して、サービスを提供している海外FX業者には違法性がつきまといます。事業者の所在地がどこであるかにかかわらず、日本居住者向けに金融商品取引業を営むには、第一種金融商品取引業の登録が必要です。
これをせずにサービスを提供すると金融商品取引法第29条に抵触し、違反者には5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科されます。しかしながら海外FX業者は文字通り海外に拠点があるので日本の法の効力が及ばず、摘発されていないのが現状です。
これも後述しますが、海外FXにはIB報酬といって、投資家がFX取引をするたびにスプレッドの一部が還流される一種のアフィリエイトのような仕組みがあります。
これについても、日本居住者に対して勧誘をするには同様の登録が必要になるため、無登録のまま勧誘をしているのは違法です。
しかし、ここに法律の抜け道があります。先ほどから述べているように、日本居住者向けに無登録でサービスを提供することは違法ですが、「海外在住で日本語を読める人」向けにサービスを提供する分には違法とはなりません。業者側は「日本語でサービスを提供しているが、日本居住者向けではない」と強弁することで、ギリギリのところで違法性をすり抜けようとしているわけです。
実際に海外FX業者のサイトやアフィリエイトサイトを見ると、「日本居住者向けではない」との文言が見受けられます。
海外FX業者の息がかかったサイトや記事を見ると、この文言があるから違法ではないとかなり無理筋のロジックが展開されていますが、どうにかして違法性を逃れようとしてグレーゾーンに居座っている海外FX業者が健全であるわけはありません。
海外FXのメリットはどれも役に立たない
海外FXを利用している人、利用しようと思っている人は少なからずいます。その理由は、海外FX特有の「メリット」があるからです。よくいわれているメリットは、三つあります。
一つ目は、ハイレバレッジ取引。日本国内ではFXのレバレッジが25倍までに規制されているので各社上限は横並びですが、海外FXは数百倍なんて当たり前、1000倍や2000倍のレバレッジが利用できる業者まであります。
少額で大きな利益を狙えることはFXのメリットなので、海外FXならそのメリットが最大化される! と考える人がいても不思議ではありません。
二つ目は、ゼロカットです。これは日本のFX投資家にはあまりなじみがないサービスで、強制ロスカットが間に合わず口座残高を上回る大きな損失が出た場合であっても、業者がその超過分を負担し、ゼロにしてくれるというものです。
そして三つ目は、入金ボーナス。口座への入金に対するボーナス制度で、多くの海外FX業者が設けている特典です。一定金額までは入金額と同額のボーナスが入るため、実質的に残高が倍になります。さらに数十%のボーナスがつくなど、これだけを見ると「戦わずして勝つ」ことも可能です。
これらのメリットは国内FX会社にはないものなので、海外FXに目が向く大きな要因となっています。しかし、これらのメリットはよく見ると役に立たないものばかりです。
ハイレバレッジ取引については、そもそも国内FX会社の上限である25倍でも十分ハイレバレッジで、金融先進国といわれる諸外国と同水準です。これ以上のレバレッジを求めるのはギャンブルに近い投資であり、数百倍ものハイレバレッジでポジションを持つと相場のわずかな変動でロスカットになってしまうのは目に見えています。
ゼロカットも一種の保険のように感じるかもしれませんが、そもそも強制ロスカットになるような投資は資金管理ができていない証拠で、FXで資金を溶かしてしまう典型的なパターンです。ロスカットにならないようにするのが、FXの基本であることを忘れてはいけません。
そして、入金ボーナス。これについてはそもそも口座からの出金でトラブルが頻発している海外FXにおいて、出金できないボーナスをもらっても意味はありません。
役立たないメリットに対して強烈な三つのデメリット
実は役に立たないメリットに対して、海外FXのデメリットやリスクは強烈です。まず、FXの取引コストであるスプレッドは広めです。ゼロカット発動時の補填や入金ボーナスなどの費用をまかなう必要があるので、海外FX業者はスプレッドを広くすることでその原資を回収しています。そしてもう一つ、取引の度に発生するIB報酬の分だけスプレッドが広くなることも忘れてはいけません。取引をすればするほど、後から口座開設して入ってくる人へのボーナスや、IB報酬狙いのアフィリエイターの「養分」にされているわけです。
国内FX会社で年間に20万円以上の利益を上げると分離課税といって、一律20.315%の税金が発生します。これに対して海外FXで利益を上げると分離課税にはならず総合課税になるため、利益を上げるほど税率が高くなります。最高税率は住民税も合わせると55%にもなります。「どれだけ利益を上げても税率は一律」というのは国内FXの税制面でのメリットですが、海外FXだとそれが生かされません。
そして、極めつけは出金トラブル。入金ボーナスなど大盤振る舞いのサービスが目白押しの海外FXですが、いざ口座から出金しようとすると出金に応じないというトラブルが頻発しています。ネット上では「正しい方法を知れば出金トラブルは起きない」というアフィリエイターらしき記事が散見されますが、国内FX会社ではそもそも正しい方法を知らなくてもスムーズに出金できるので、「なぜ自分のお金を引き出すのに工夫する必要があるのか?」となります。
海外FXは出金できたとしてもかなりの日数を要することがあるのに対し、国内FX会社では出金依頼をする時間帯によってはその日のうちに出金されます。出金ができなければ投資商品としての意味はありませんし、太平洋やカリブ海にある小島にペーパーカンパニーがあるだけの業者と揉めたとしても、そこに乗り込んでいってお金を回収するのは月旅行をするよりも難しいのではないでしょうか。
海外FXに咲いたあだ花、IB報酬
海外FXには、IB報酬という仕組みがあります。IBは「Introducing Broker」の略で、ブローカー(FX業者)の紹介、といった意味合いです。IBはアフィリエイトの一種ですが、報酬が発生するタイミングが独特です。
FXのアフィリエイトは日本国内にもあります。FX会社の紹介をして、そのアフィリエイターを経由して口座開設をすると報酬が発生します。その一方でIB報酬は、アフィリエイターを経由して口座を開設した投資家が取引をするたびにスプレッドの一部が報酬となります。アフィリエイターとしては利益発生のタイミングが多くなるのでオイシイ商売です。海外FX業者にはIB報酬の仕組みがあるので、アフィリエイターにとっては魅力的な存在といえます。
海外FX業者での口座開設を条件に、EAを無料配布しているサイトが見受けられますが、これらのサイトがEAを無料で配布できるのは、IB報酬と紐づけになっているからです。そのサイトを経由して口座開設をするとIB報酬が還流されるため、無料でのサイト運営やEA配布が可能になります。
IB報酬はアフィリエイターだけでなく、EA開発者やEA提供者、オンラインサロン運営者などにとっても収入源となるため、EAの無料配布やEAに関する情報の無料配信などの原動力になっている側面もあります。実際、EAの無料配布を行っているサイトを見ると口座開設が条件になっていることがほとんどで、口座の開設先は海外FX業者ばかりです。
EAの開発や配布を促進する原動力になっているのであれば問題ないのでは?と見る人もいるかもしれませんが、IB報酬はそもそも日本国内では違法のビジネスモデルです。というのも、金融商品取引法の定義では、IBを手がける事業者は第一種金融商品取引業に該当し、自社でFX取引サービスを提供する事業者と同様に金融庁への登録が必須です。しかし、実際にIB報酬狙いで海外FX業者での口座開設を勧誘しているアフィリエイターが登録済みの正規事業者であるかというと、そんなことはありません。
そもそも法的な問題から、国内FX会社にはIB報酬の仕組みがないのですから、海外FX業者と組んでIB報酬を狙っている時点で「同じ穴のムジナ」です。
海外FX業者への勧誘を目的としたサイトの中には、外為相場の展望やお勧めの投資戦略などを指南しているものも見受けられます。
これについても金融商品取引法第29条に基づく投資助言・代理業の登録が必要と規定されているので、無登録でこうした情報を有償で提供することはできません。
個人が趣味の延長で情報発信をしている分には問題ありませんが、IB報酬やオンラインサロンなど利益を目的に投資助言行為をすると、違法になります。IB報酬を狙った海外FX業者への勧誘サイトの多くは、この法令にも抵触している可能性大です。
このようにIB報酬を前提にした、無登録の勧誘行為は違法になるため、悪質な場合は日本国内でアフィリエイトサイトを運営している人が摘発される可能性もあります。
海外FX業者で無料EAを運用している投資家が責任を問われることはありませんが、IB報酬を支払うために広いスプレッドでの取引をしなければならず、取引をすればするほど不利になるので、EAが無料だからといって推奨はできません。
結局、海外FXは「無し」なのか?
ここまで海外FXの違法性や問題点などについて述べてきました。こうした事実を知ると、もはや海外FX業者を利用する人はいないと考えるのが普通ですが、現実は違います。なぜ、こんなに多くの人が海外FX業者を利用しているのでしょうか。
最大の理由は、広告のうまさです。ネット広告やSNSを活用したPR活動は実に巧みで、もしかすると国内FX会社よりも上手かもしれないと思える部分もあります。ある業者は格闘家のボブ・サップを起用していますし、他の業者も数百倍もしくはそれ以上のハイレバレッジ取引が可能であることや、高額の入金ボーナスなどを魅力的にアピールしています。入金額と同額のボーナスが得られることをアピールしている業者の広告には、自分の資金をリスクにさらすことなく取引ができることを謳っているものまであります。
こうした広告を見ていると日本人に「刺さる」広告の見せ方を熟知しているように感じるので、海外FXといいながらも日本人が日本居住者をターゲットにしていることは明白です。
こうした事情を知った上であっても海外FX業者を利用することは、完全なる自己責任の世界です。もちろんFXは投資なので、結果については自己責任ですが、海外FXの場合は出金できない、どこにあるのかも分からない業者が突然雲隠れするといったリスクも含まれます。出金できない、業者が雲隠れしたといって泣きついても、誰も助けてはくれません。事実、主要な海外FX業者だったGEMFOREXは突然閉鎖された上に、2024年1月時点で投資家への返金は行われていません。「M&Aの協議を進めている」とアナウンスしていますが、この結果がどうなったとしても資金が戻ってくる保証は一切ありません。
今後、FX業界はどうあるべきか
FXはこれまでに何度もブーム化したこともあって、今や個人投資家にとって主要な投資商品の一つになっています。しかしその一方で、FXをギャンブルのように捉える人や、レバレッジ取引に「怖い」というイメージを持つ人が多くいます。かつては国内FX会社でも数百倍のレバレッジを利用できたこともあって、少額から一獲千金を狙うような投資スタイルの人が殺到したこともあります。しかし、そういった投資家のほとんどは資金を溶かし、退場を余儀なくされました。FXに対して誤った認識を持ってしまい、結局は資金管理が至らずロスカットになってしまったわけです。
こうした人がいる一方で「億を稼いだ」という人の話題がセンセーショナルに拡散すると、FXを一か八かのギャンブルと思う人が多くなってしまうでしょう。
しかし、これらはFXの本質ではありません。資金管理を徹底してコツコツとトレードの技術を磨けばきっと着実に利益を上げられるようになりますし、そんな地道な努力を続けている人が成功している世界です。
これがFXの本来あるべき姿であることを考えると、海外FXがその本質から大きく外れた存在であることが改めて浮き彫りになります。数百倍、数千倍という途方もないハイレバレッジ取引はギャンブルトレーダーを喜ばせるだけですし、ロスカットを回避するための資金管理ができている人にとってゼロカットは必要のない仕組みです。入金ボーナスについても、それだけを見れば魅力的に映るかもしれません。しかし、ボーナスも含めて資金を引き出すことができなければ、口座画面に表示される「数字」でしかありません。海外FX業者は入金ボーナスの多さを競い合っていますが、業者にとって入金ボーナスをどれだけ大盤振る舞いしても腹は痛みません。あれこれ理由をつけて出金拒否をすれば支払う必要はないのですから。
現在、海外FXに関する問題が頻発しています。その多くは出金トラブルで、消費者庁も専用のページを設けて注意喚起をしています。
こうした被害に遭ってしまう人のほとんどは、FXの初心者です。FXに対する正しい認識を持っていない人に向けて、海外FX業者は「うまい話」を持ち掛けます。まだ国内FX会社との区別がついていないような人は、うまい話が満載の広告に食いついてしまい、入金をしてしまうのです。
本来FXとはハイレバレッジ取引やゼロカットを前提とせずとも効率の良い運用が可能で、技術を磨くことで資金を着実に増やしていける投資商品です。ギャンブル的な思考で一獲千金を狙っていると、そのニーズに応えているかのように見える海外FXの世界に足を踏み入れてしまいかねません。FXの本質を知り、うまい話に乗ってしまわないようにすることも、FX投資家にとっての「必修科目」です。
海外FXのポイント
【1】海外に拠点があり、日本国内での営業ライセンスを持たない違法業者を海外FXと呼ぶ。外資系であっても、日本でのライセンスを持つFX会社はこれに該当しない
【2】海外FXの表面的なメリット、①ハイレバレッジ、②ゼロカット、③入金ボーナスはどれも投資の本質から外れていて役に立たない
【3】海外FXのデメリットは強烈で、①広いスプレッド、②悪い税制、③出金できないリスクがある、が挙げられる
【4】IBとはpipsバックのことで、日本国内での提供は金融ライセンスが必要。よって、IB報酬を絡めた営業行為は逮捕の可能性がある
FX雑誌「外国為替」vol.13
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