ドイツやスイスを中心に多数発行
ヨーロッパのアンティークコインのデザインは、君主等の肖像と紋章の組み合わせが多いです。テレビもインターネットもない時代、自国民に対して君主の権威を示すにはコイン(貨幣)がちょうど良かったのです。その一方、君主の権力が及ばない地域や自治権が強い都市では、コインに君主を描く必要はありませんでした。代わりに都市の風景が採用されることがあり、そのようなコインを都市景観コインといいます。
神聖ローマ帝国(現在のドイツ)には皇帝がおり、帝国内の各地には諸侯もいました。さらに、大きな自治権を持った都市(自由都市)もありました。ニュルンベルクは自由都市で貨幣発行権も持っており、都市景観コインを発行したことで知られています。画像①のコインは1698年に発行され、ニュルンベルクの城壁や教会、そして馬に乗る人々が生き生きと描かれています。このコインはクリッペと呼ばれるタイプで、円形ではなく角型なのが特徴です。現存枚数はわずか2枚とされており、滅多に市場に出てこない貴重品です。
なお、ドイツは第二次世界大戦で多くの都市が破壊されており、ニュルンベルクも例外ではありませんでした。戦争により貴重な歴史的遺産が失われてしまったため、都市景観コインは当時の町の様子を現代に伝える貴重な史料となっています。
また、ドイツの最南端付近にあるラーベンスブルクも、神聖ローマ帝国時代は自由都市でした。都市景観コインは銀貨でも発行されており、画像②の銀貨は発行枚数が187枚の希少品です。コインに描かれた都市の様子を見ると、城壁が張り巡らされてその周囲には堀もあり、当時の自由都市がどのようなものだったかがよく分かります。
このコインは1624年に発行されており、裏面には三十年戦争(1618~1648年)に参加した同盟諸侯の紋章が描かれています。三十年戦争では神聖ローマ帝国の諸侯だけでなく周辺諸国も入り乱れて戦ったため、神聖ローマ帝国は荒廃してしまいました。この戦争により、神聖ローマ帝国の人口は15~20%(300~400万人)減少したといわれています。戦争後の講和条約では諸侯の主権がほぼ完全に認められたため、ドイツの統一は1871年まで待たなければなりませんでした。
都市景観コインはドイツやスイスを中心に数多く発行されています。お手頃価格のものから超高額のものまでさまざまで、当時の街並みをコインで眺めるのもコレクションの楽しみ方の一つです。
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
定価:980円(本体891円)