以前の記事(証拠金とロスカットの関係~初心者が最初に理解しておきたい仕組み~)では、証拠金とロスカットの関係を取り上げました。今回はその続編として、「代用有価証券」の仕組みと、現金の証拠金との違い、利用する前に確認しておきたい点を整理します。
代用有価証券の利用を勧めたり避けたりするよう促すものではなく、判断の材料として読んでいただければと思います。
代用有価証券とは何か
現金の代わりに差し入れる「担保」という考え方
FXを始めるときには、取引の担保として「証拠金」を預けます。証拠金は現金で預けるのが一般的ですが、一部の証券会社では、すでに持っている株式や債券などを、現金の代わりに証拠金として差し入れることができます。株式投資とFXの両方を手掛ける人にとって、これは便利な仕組みです。持っている株を売らずに、そのままFXに生かせるからです。
代用有価証券の基本は、「保有している有価証券を担保として預け、その評価額を証拠金として数える」という考え方です。
たとえば、ある会社の株式を持っている人が、その株式をFX口座の担保として差し入れたとします。株式は売られたわけではなく、持ち主はそのままです。会社によっては、担保に入れている間も配当金や株主優待を受け取れるとしています。あくまで「預けている」状態なので、株式を保有しつつ、その価値の一部をFXの証拠金として使えるのです。
対象となる資産は会社によって異なります。国内上場株式を対象とするサービスが中心ですが、会社によっては投資信託やETF、REITなども対象になります。同じ株式でも、銘柄によっては対象外になることがあり、NISA口座で保有している資産は対象外とする例も見られます。
そもそも、代用有価証券を受け付けているかどうかも会社や口座によってまちまちです。証券会社が提供するFX口座の一部で利用できるサービスで、取引所FXの口座の中にも、証拠金は現金のみとしているところがあります。「FX口座なら、どこでも株を担保にできる」わけではない点は、最初に押さえておきたいところです。
「掛目」と代用評価額~額面どおりには数えられない~
代用有価証券を理解するうえで最も大切なのが、「掛目(かけめ)」という考え方です。これは、担保にした有価証券の時価のうち、何割を証拠金として数えるかを示す割合のことです。
担保として数えられる金額は「代用評価額」と呼ばれ、基本的には次のように計算されます。
◎代用評価額=有価証券の時価 × 掛目
たとえば、時価100万円の株式を担保にして、その株式の掛目が70%だった場合、証拠金として数えられるのは70万円です。現金100万円を預けた場合には100万円がそのまま証拠金になるのに対し、株式100万円では30万円分が差し引かれることになります。

時価どおりではなく割り引いて数える理由は、担保にした有価証券の価値そのものが、下がる可能性があるためです。現金100万円は明日も100万円ですが、株式100万円は、株価変動で90万円にも80万円にもなります。あらかじめ一定の割合を差し引いておくことで、担保の値下がりに備えているのです。
このような理由から、掛目は値動きの大きさや売買のしやすさなどに応じて、資産ごとに異なる水準に設定されるのが一般的です。株式では7割前後とする例が多く、値動きが比較的穏やかな国債などの債券では、それより高めに設定される例が見られます。具体的な数値は会社や銘柄によって異なり、変更されることもあるため、利用する際はその時点の各社の案内で確認してください。
現金の証拠金と何が違うのか
担保の価値そのものが日々動く
現金の証拠金と代用有価証券は、担保の価値そのものが動くという点で大きく違います。FXでは、口座の資金に対してどれだけ余裕があるかを「証拠金維持率」で管理します。証拠金維持率は、おおまかに言えば
「有効証拠金(預けた証拠金に、ポジションの評価損益を加えたもの)÷ 必要証拠金」
で計算され、この数値が会社の定める水準を下回ると強制ロスカットが行われます。
現金だけで取引している場合、有効証拠金が減るのは、主にFXのポジションに評価損が出たときです。一方、代用有価証券を使っている場合は、担保にした株式や債券の値下がりによっても代用評価額が減り、その分だけ有効証拠金が減ります。つまり、代用有価証券を使っていると、FXのポジションがまったく動いていなくても、証拠金維持率が下がることがあるのです。
具体的な数字で見てみましょう。ここでは、計算を簡単にするため、次のような条件を置きます。
・担保:時価200万円の株式(掛目70%)→ 代用評価額は140万円
・FXのポジション:必要証拠金60万円分の買いポジション(計算を簡単にするため、必要証拠金は一定とします)
・現金の預け入れ:なし
取引を始めた時点の証拠金維持率は、140万円 ÷ 60万円 = 約233%です。
ここで、FXのポジションの損益はゼロのまま、担保にした株式の株価が30%下がったとします。株式の時価は140万円になり、代用評価額は140万円 × 70% = 98万円に減ります。証拠金維持率は、98万円 ÷ 60万円 = 約163%です。FXでは何も起きていないのに、維持率は約70ポイント下がったことになります。
さらに、同じタイミングでFXのポジションにも30万円の評価損が出たとしましょう。有効証拠金は98万円 − 30万円 = 68万円となり、証拠金維持率は68万円 ÷ 60万円 = 約113%まで下がります。
比較のために、最初から現金140万円を預けていた場合を考えてみます。株価の動きは関係ないので、FXの評価損30万円だけを差し引くと、有効証拠金は110万円、証拠金維持率は約183%です。同じFXの損失でも、担保が現金か株式かによって、残る余裕に大きな差が生じることが分かります。

ここで仮定した株価の下落幅は、説明のために大きめに置いたものです。とはいえ、代用有価証券を使う場合は、FXの値動きだけでなく、担保にした資産の値動きにも目を配る必要がある、という点は覚えておきたいところです。
損失の支払いには現金が必要になる
もうひとつの大きな違いは、損失の精算です。
代用有価証券は、あくまで「担保」として預けているものです。そのため、FXで決済して損失が確定した場合、その支払いは現金で行う仕組みになっているのが一般的です。担保にした株式で損失を直接支払うことはできず、口座の現金から差し引かれることになります。
では、口座に現金がない状態で損失が確定するとどうなるのでしょうか。この場合、口座の現金がマイナスの状態、つまり「現金が不足している」状態になります。多くの会社では、こうした不足が生じると、定められた期限までに不足額を入金するよう求められます。期限までに入金がない場合には、担保として預けている有価証券を会社が売却し、その代金を不足分に充てることがあると定められています。保有し続けるつもりだった株式が、自分の意図しないタイミングで売却される可能性があるということです。
代用有価証券を使ったFXは、「現金0円で始められる」と紹介されることがあります。たしかに、取引を始める時点では現金がなくても、担保の評価額の範囲で取引できます。しかし、損失が出れば現金での精算が必要になります。また、担保の評価額が下がったり、FXで評価損が膨らんだりした場合にも、追加の入金を求められることがあります。「現金0円で始められる」ことと「現金がまったく要らない」ことは別のものとして理解しておくことが大切です。
利用する前に確認しておきたいこと
値動きが重なるリスクと、ルール変更のリスク
前の章の計算例で見たように、代用有価証券を使う場合に特に注意したいのが、担保の値下がりとFXの評価損が同じタイミングで起きるケースです。どちらか一方だけなら余裕があっても、両方が重なると、証拠金維持率は短い期間で大きく下がることがあります。
市場全体が大きく揺れる局面では、株式と為替の両方が大きく動くことがあります。このとき、担保にしている資産と、持っているFXのポジションが、どちらも不利な方向に動く可能性もあります。
わかりやすい例が、担保の資産とFXのポジションが同じ通貨に関係している場合です。たとえば、輸出企業など円高の影響を受けやすい日本株を担保にしながら、ドル円の買いポジションを持っているケースです。急激な円高が進んだ場合、ドル円の買いポジションに評価損が出ると同時に、業績悪化への懸念などから担保株も値下がりする可能性があります。同じ要因によって、両方が不利に動くことがあるのです。実際に、このような同一通貨の組み合わせについて、注意を呼びかけている会社もあります。
もうひとつ見落としやすいのが、ルール変更のリスクです。掛目は一度決まったら変わらないものではなく、市場の状況などに応じて、取引所や証券会社の判断で引き下げられることがあります。また、特定の銘柄が担保の対象から外されることもあります。掛目が下がったり、担保の対象から外れたりすれば、自分では何も取引していなくても代用評価額が減り、証拠金維持率が下がります。変更は事前に通知されるのが一般的ですが、相場が急変した場合などには、通知から適用までの期間が短くなることもあります。
余裕を持った使い方と、事前に確認したい規定
ここまで見てきたように、代用有価証券には現金の証拠金にはない注意点があるため、これらを踏まえて利用する場合、次のような工夫が考えられます。
まず、代用評価額をめいっぱい使い切らないことです。担保の値下がりや掛目の変更が起きても証拠金維持率に余裕が残るよう、ポジションの量を控えめにしておくと、慌てずに済む場面が増えます。
次に、損失の精算や追加の入金に備えて、現金も一定額を口座に置いておくことです。代用有価証券と現金を組み合わせておけば、損失が確定したときにも、担保の売却を心配せずに済みやすくなります。
そして、FXの値動きだけでなく、担保にしている資産の値動きや証拠金維持率もこまめに確認することです。あわせて、利用を始める前に、各社の規定で次の点を確認しておくと安心です。
・担保にできる資産の種類と、それぞれの掛目
・代用評価額をどの時点の価格で計算し、いつ更新するのか
・現金が不足した場合のルールと、入金の期限
・担保の有価証券が売却されるのは、どのような場合か
・掛目の変更や担保対象からの除外は、どのように通知されるのか
・システム障害などが起きた場合に、どのような取り扱いになるのか
これらは会社によって細かな違いがあり、説明書類や取引ルールのページに記載されています。少し手間はかかりますが、一度目を通しておくことで、いざというときに「こんなはずではなかった」と戸惑うことを減らせるはずです。
まとめ
代用有価証券は、保有している株式や債券などを売らずに、FXの証拠金として生かせる仕組みです。株式投資とFXの両方を手がける人にとっては、資産を有効に使うための選択肢のひとつになります。
一方で、現金の証拠金とは次のような違いがあります。
・時価がそのまま証拠金になるのではなく、掛目をかけた代用評価額で数えられる
・担保にした資産の値動きによって、FXの損益とは関係なく証拠金維持率が変わる
・FXの損失は現金で精算するのが一般的で、現金が足りないと入金を求められたり、担保が売却されたりすることがある
・掛目の変更や担保対象からの除外など、ルールの変更によっても証拠金維持率が下がることがある
代用有価証券を使うかどうかは、取引のスタイルや保有している資産の状況によって判断が分かれるところです。大切なのは、便利さと注意点の両方を理解したうえで、自分に合った使い方を選ぶことです。この記事が、その判断の材料になれば幸いです。
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