「“ダマシ”が生まれる背景を知るだけでチャートを見る目が変わりますよ」そう語るのは、20年以上のトレード歴を誇り、株式、先物、FXで確かな実績を上げている村居孝美さん。
ダマシ(ストップ狩り)を逆手に取った手法は当時からあったそうですが、今回はFXでも使えるように改良した裁量トレードを教えていただきました。
※この企画では、サポートライン、レジスタンスラインを全て抵抗線として表現しています

村居孝美(むらい たかよし)氏プロフィール
伝説的トレーダー集団タートルズ、世界的投資家ラリーウイリアムズ氏他、トップトレーダーに直接取材を敢行し、その体系を再現すべく、システムトレードソフト「KENSHIRO-225」「ロジツク」をリリース。市場独自のアノマリーと値動きの規則性で作り上げた複数の売買戦略にて、リスクを軽減し高リターンの実績を上げている、トレード歴20年のシステムトレーダー。【著書】トレードの成功哲学 (パンローリング)
聞き手・本文◉上岸誠太郎
20年前のトレード理論がストップ狩り手法として復活
─村居さんといえば自動売買のイメージが強いのですが、そんな村居さんがFXの裁量取引で、しかもスキャルピングをされていることに興味があります。
村居孝美(以下:村居) そもそも僕は裁量トレーダー出身なんです。20年前から、株式取引で投資を始めていて、その頃から使っていた手法が特定の時間帯に着目したものやチャートパターンだったんですね。
例えば当時流行っていた手法だと「30分ブレイクアウト」が有名でした。株式市場が始まってからの30分間はストップ狩りが起きやすく相場が荒れやすいので、そこではトレードせずに30分後にブレイクした方向に入るというだけなんですけど。そのような手法がトレーダーとしての考え方の軸になっています。昨日今日思いついたわけではなく当時使っていた手法の延長線上にあるものなんですよ。
また、30分ブレイクアウトですが、当然のようにダマシがよく出るんです。大きくレンジ相場からブレイクしたと思ったのに戻ってきてしまうという(笑)。でもダマシが出てきたときも取引機会があって、買いエントリー目線でダマシが発生したときは売っていくんです。
伝説にもなったトレーダー集団のタートルズのブレイクアウト手法のダマシを狙ったタートル・スープという手法ってご存じですか? ダマシを活用したやり方は僕が始めていた頃からすでに有名でした。ネット株が流行っていた頃はみんなブレイクアウトだったんじゃないかな(笑)。
─当時から注目されていた時間帯とチャートパターンが「ストップ狩り手法」のベースとなっているのですね。
村居 ダマシに着目した手法を研究していく中で分かったことなんですが、どうしてダマシが起きるのか、一度は気になったことはありますよね? チャートパターンとしては「こうなったらこう」というのは目に見えているので誰にでも分かってきますが、そのような値動きを誰が作っているのかという部分は見えないじゃないですか。
僕の考えですが、ヘッジファンド(大口)による意図的なストップ狩りがダマシが起きる要因だと思っています。
手法を研究していた当時はまだ知りませんでしたが、勉強熱心すぎて米国へ跳んで、ラリー・ウィリアムズ氏やタートルズに所属していたトレーダー、自動売買のヘッジファンドをやっている方などに直接話を聞きに行ったことがあるんですね。そのときに、大口にとって都合の良いチャートを作っているという方たちにも出会ったことがあって。
─都合の良いというのはどういうことでしょう?
村居 「大口が儲かるためのチャートの形」ということですね。大口は注文の桁が違いますから、入っている注文量の多い(流動性が高い)価格帯まで相場を動かす必要があるわけです。「そのような場所で個人投資家が売買していたら大口の注文に巻き込まれてしまうでしょう」といった感じのことを仰っていたんですが、それがいわゆる「ストップ狩り」のことなんですよ。
FXは最近始めたばかりですが、ずっとマーケットを観察していたところ「なんか株式よりストップ狩りが多くないか?」と思うようになってきたんです。さらに突き詰めて観察していくと、市場の始まりや切り替わる時間帯によってダマシが起きやすいことにも気がついて。そのあたりから「ストップ狩り手法」のイメージが湧いてきたんです。
フェアバリューギャップからの押し目と戻りを狙っていく
─手法の材料としては他にもギャップ(窓開き)を取り入れられていますね。
村居 ストップ狩りの多さに注目していたところ、ブレイクアウトから反転したときに勢いがあったほうが結果が良いことが分かったんです。それで取り入れたのがギャップで。昔僕が株の先物取引をやっていた頃、ギャップトレードもやっていました。
停滞している株に長い陽線が出て出来高が伴うと大きく上がるんですよ。元々僕がローソク足の形や長さ、チャートパターンなども取り入れて手法に落とし込んでいくタイプということもあって、ギャップに着目するのは自然なことでした。
株と違ってFXはほとんどギャップがありませんよね。週明けの「窓」くらいで。でもFXには長いローソク足をギャップと見る考え方があるんです。長いローソク足とその前後、3つのローソク足でギャップを判断できて、これをフェアバリューギャップ(以下FVG)といいます。ちなみに、このような大口のストップ狩り(ダマシ)にギャップを取り入れた手法は「スマートマネーコンセプト」という近年海外で話題になっているトレード理論とかなり近いものだったんです。
トレードに対して見ている部分が海外の方と似ているのは、僕が米国のトレードを学んで実践してきたというのが根底にあるからなのかなと思っています。20年前に株でトレードしていた海外のやり方、考え方が今FXで話題になっているというのは興味深いものがありますね。
損切りはストップ狩りの外側に利食いは欲張らない気持ちで
─続いて手法の流れや注意点などを教えてください。
村居 チャートの見方に関しては、エントリーは1分足や3分足でやっていますが、トレンドや抵抗帯を探すために上位足もチェックしています。実は15分足でもエントリーすることがあるんですが、長い時間足にするとその分「待ち」の時間が長くなりますね。スキャルピングもできるしデイトレードもできるということです。
通貨ペアはドル円とクロス円を監視していますが、この手法は相場の普遍的な考え方を根拠にしていますから、他の市場でも通用する可能性はありそうです。ゴールドで取引している知り合いもいますので。
─ストップ狩りから反転したあとの長いローソク足(FVG)を見極めるのは練習が必要そうだと感じました。
村居 ストップ狩りとFVGの見極めは過去チャートで何回も練習してみてください。1分足で難しく感じる場合は3分足のチャートで見たほうがわかりやすいかもしれません。3分足以上になると、もう少し長い目線でトレードすることになりますね。
練習していけばどれがストップ狩り(ダマシ)でどれがブレイクアウトなのか分かるようになってくるので、諦めずに頑張ってください。
─エントリーについては練習が必要だとして、利確と損切りの決済はいかがでしょうか?
村居 損切りは簡単ですよ。ストップ狩りのところを根拠にエントリーしているわけですから、そのちょっと外になります。
東京時間から欧州時間に切り替わる時間帯や、東京、NYの始まる時間などはストップ狩りが起きやすくてボラティリティが大きくなるので、余裕を持って損切りの設定をしておくと良いでしょう。
利確が一番難しいところで、どこの抵抗線を見るのかは上位足も参考にして判断しています。最初のうちはあまり欲張りすぎずに直近の高値、安値で利確してみるのがいいかもしれません。
─リスクリワードは気にされていますか?
村居 1対1くらいならトレードしていいと思いますよ。リスクが上回っているときは無理せず見送ってください。エントリーしたくなってしまう気持ちは分かりますが不利な条件で戦っても良いことないですから(笑)。
市場が切り替わる時間帯はトレードの成功率が高い
─ストップ狩り手法はどの時間帯でも使えるとのことですが、成功率の高いおすすめの時間帯はありますか?
村居 おすすめはボラティリティが大きい時間帯です。東京時間から欧州時間に切り替わる時間帯やNY勢が参入してくる時間帯がいいですね。
東京時間の高値と安値のレンジは要注目です。また、YouTubeのライブ配信でもやったことがありますが、米雇用統計や注目度の高い指標発表の時間はこの手法を使えそうなので目下研究中です。
─最後に読者へ一言お願いします。
村居 まずは大口の存在をあるものとしてチャートを見ることから始めてみましょう。ストップ狩りに巻き込まれる側から利用する側になれたら、おのずとトレードの成績が好転するはずです。この手法の実演をYouTubeライブで配信しているので、トレードのコツをもっと知りたい方はぜひ「狩りスキャch」までお越しください。
インタビュー実施日◎2025年3月11日
ストップ狩り手法の実例(ドル円 売りの場合)

ストップ狩り手法の流れは上位時間足のチェックから始まります。効いている高値、安値に水平線を引き、1分足などで値動きを確認。ブレイクからの反転(ダマシ)、FVG、直近高値安値の更新という条件をクリアしてエントリーのタイミング待ちに。それぞれの条件をクリアできなかった場合は取引NGです。利益確定は裁量要素があるので慣れが必要ですが、損切りの場所はストップ狩りのあった価格より若干外側と分かりやすいです。
“大口”の売買がストップ狩りを誘発させる

外国為替市場の取引の多くが「大口」と呼ばれるヘッジファンドや機関投資家によるものであり、個人投資家の占める割合は少ないという声もあります。彼らは膨大な資金を運用するため、注文量が多く流動性の高くなるタイミングを狙って取引を行っていきます。
流動性の低い相場では売買できないため、大口は意図的に注文量の多い価格帯(マーケットの注目度が高い価格帯)まで通貨ペアの価格を動かしてきます。
注文が集中している特定の価格帯の見抜き方

マーケットの注目度が高い価格帯とは、一言でいえば「効いている下値支持線や上値抵抗線」のことです(上位時間足になるほど注目度は高い)。この価格帯付近では多くの注文が入っているため、そこまで価格が推移すると、多くの注文が約定して流動性が急激に高まっていきます。ヘッジファンドなどの大口は意図的に流動性が高まるであろうところまで価格を動かしていき、ストップ狩りに巻き込まれている個人投資家を尻目に、売買しやすい状況を作り出しています。
ストップ狩りが発生しやすい場所と時間帯

基本的にストップ狩りは上位時間足の抵抗線において発生しますが、市場が切り替わる時間帯は相場に勢いがつきやすく発生しやすい傾向があります。上の画像は東京時間の動きがある時間帯。前日の安値をブレイクしかけたもののすぐに反転し、ストップ狩り手法のパターンに合致した展開となりました。

東京時間から欧州時間へ切り替わるタイミングも狙い目。その際は東京時間のレンジ高値・安値が注目すべき抵抗線となります。上の画像は東京時間の安値と、東京時間のレンジ高値の両方で欧州時間直後にストップ狩りが見られたケースです。
フェアバリューギャップ(FVG)を活用する

フェアバリューギャップ(FVG)はマーケットに勢いがある際に出現するチャートパターン。ポジションバランスの不均衡を表します。週明けに起こる「窓開き」と似た意味合いがあり、この空間は埋まりやすいといわれています。今回村居さんから教えていただいた手法では、この特徴を活用して押し目買い・戻り売りのエントリーポイントとしています。
利確と損切りのチェックポイント
利確のポイント
▶直近の高値や安値が利確の目安に
▶市場の切り替わる時間帯は欲張らないのがコツ
▶村居さんは単純移動平均線(SMA)も目安にしている
損切りのポイント
▶損切りの目安はストップ狩りの若干外側の価格
▶損切りは必須!! エントリーと同時に注文すること
▶利確と損切りのリスクリワードが1:1以下になるならトレードを見送る
今回村居さんに教えていただいたストップ狩り手法は、トレード経験者であれば比較的簡単な部類に入るでしょう。損切りはトレードの根拠にあたるストップ狩りの発生した価格の若干外側でOK。利確は直近の高値・安値を目安に行いますが、この手法に慣れるまではあまり欲張らないほうが良さそうです。どんなトレードにもいえることですが、損切りの逆指値注文は必ず発注しておくこと! 忘れないようにエントリーと同時(もしくは直後)が望ましいです。