EA運用者として圧倒的な高成績を叩き出しつつ、FX業界全体の知識、技術向上のために精力的に活動を続けるたっくん氏。
EA運用の醍醐味を、裁量トレードとの比較で語っていただきました。
また、2022年は好調だったアノマリー、仲値系のEAが、2023年は苦戦するという予想の理由も教えてもらいました。
聞き手◉鹿内武蔵/本文◉武田貴士
たっくんさんの「大成功」までの軌跡
バイナリーオプションから裁量トレード、次いでEAに主戦場をシフト
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2022年はアノマリー系のEAを主体に大きな利益を上げる
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2023年は金利差縮小などを要因に、円高相場になる可能性あり。そうなるとアノマリー系EAの成績は落ちるので、ポートフォリオの再編を計画中
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業界全体で協力してリテラシー向上へ尽力中。ユーザー同士で競争せず、『共創』することで業界の発展を目指す
バイナリーから裁量トレードへ
─EA界隈で有名なたっくんさんですが、FXや投資に関わったきっかけは何だったんですか?
「最初はバイナリーオプションからスタートだったんですよね。2020年くらいから株式も触り、バイナリーから2021年末にFXに移り、2022年から本格的にEAを触るようになりました」
─他の投資と比較してFXの良さは何でしょうか?
「バイナリーは出口が最初から決まっています。エントリーをした後の出口に対して、上がっているか下がっているかが全てです。入口のエントリーだけで戦うやり方ですよね。
一方でFXは入口も出口も自由に決められます。そこが良さでもあり、最初は難しさというか戸惑いを感じていた部分でもあります。バイナリーの感覚の名残がどうしてもあるので、FXで長めにポジションを取るのは慣れない感じでした」
─確かに、バイナリーオプションでは日をまたいでポジションを持つことはないですよね。FXは裁量からスタートしたんですか?
「バイナリーとFXが被っていた時期ももちろんあったので、FXの出だしは裁量からです。小さな利幅を狙うならペイアウトが大きいバイナリーで良いですよね。だから最初はFXを敬遠していました」
─FXではどんな情報収集や勉強をしていたのでしょうか?
「以前から継続していたことですが、経済の情勢や情報を主に仕入れて、ファンダメンタルズの要素を中心に勉強していました」
─FXを始めたときの、何か覚えている失敗はありますか?
「ロットの計算があまり分かっていなかったんですよね。慣れないうちはロットが大きくなりすぎて、ちょっとした値動きですぐに損失を出していました。何ロットに対して何pipsがいくらか、という計算が最初はピンと来ませんでした」
─損益計算の部分は大事ですよね。FXで勝てるようになったきっかけ、ターニングポイントはありましたか?
「FXではなるべく低ロットで長く保有するスイングトレードにスタイルを変えました。相場のファンダメンタルズに沿ったトレンドを利用して、そこに乗るようなイメージのトレードを実践しています。
全体的に下向きの相場であれば、とりあえずショートを低ロットで持って、時間が経てば下がるだろうというようなエントリーをして、徐々にうまくいくようになりました。ロットを小さくすることで、逆行時にポジションが気にならないというのは大きいです」
─真逆のスタイルでも勝てるのがすごいですね。最初のうちはロットを張りすぎていたということですかね?
「そうですね。ほんの数分で数万円稼ごうというのがありました。そこを意識し直して、値幅を取ってこそ利益になるのがFXだと考えを改めました。出口を自分で決められるからこそ、ある程度逆行を許容します。バイナリーのときは少しでも逆行したらおしまい、という状態でやってましたからね。含み損に慣れることで自分の中でゆとりが出ました」
アノマリー系EAは2023年の苦戦を予想
─今はFXでどんな運用をしているか教えてください。
「今はEAがメインです。目に見えるトレンドがあるときだけ裁量を少しするような形です。利益を株式の長期投資に転用するサイクルを回しています」
─どのくらいの数のEAを稼働しているんですか?
「ポートフォリオとしてはそんなに多くないです。EAは合計で8本を分散して運用していて、メインはアノマリー系です。あとはブレイクアウト系、スキャルピング系のEAになりますね」
─その比率をポートフォリオの中で調整する感じですか?
「収益に関しては、この1年だとアノマリー系が強かったです。ブレイクアウト系にしてもスキャルピング系にしても補助的な立ち位置です。2022年はアノマリー系が強いと思っていたので、メインでしっかり動かしていました。あとは口座によって、EAの組み合わせと資金を振り分けながらやっていましたね」
─仲値のEAはここではアノマリー系に含まれるんでしょうか?
「はい、そうですね。仲値に対してアプローチがかかるEAがメインです。毎日なのか、ゴトー日だけなのかという点でちょっと種類が違います」
─EAの本数は今後増やしていくんですか?
「今後はポートフォリオ内を充実させたいです。株式でいうともっと保有銘柄を増やしたいという感じですね。どうしても今は仲値系メインに組んでいるというところがあって、2022年はそれで良かったんですが、2023年からはそれでは良くないと考えています」
─そうなんですか。2023年は、これまでとは違うEAを使うんですか?
「去年の夏から、2023年はアノマリー系ではさほど勝てないと想定していたので、今後のためにEAをどんどん開発してもらっています。今年の春くらいからEAの構成はガラッと変わると思っています」
─EA運用は何をどれだけ動かすかなので、この辺りの話はポイントですよね。開発は自分でするんでしょうか?
「コーディングは一切できなくて、数値分析しかやっていません。メインのロジックのアイデアに関しては製作者が考えていますが、僕もフォワードを一緒に計測したり、フォワードとバックテストの数値を分析したりします。そして製作者に質問を投げて、回答をもらって、すり合わせで良いEAが完成します」
─以前はアノマリー系EAが強かったとのことですが、2023年の相場は違うと考えているんですか?
「流れが大きく変わると予測しています。2022年の急激な円安相場にはいろいろな要因がありましたが、やはり一番は日米の金利差です。過去にも1年で30円近くドル円が上がって、翌年に全戻しする相場がありました。だから今年は全戻しがあってもおかしくないです。
米国の金利が上がりきって高止まりになって、次は利上げした分利下げを行うと、逆回転が起こるかもしれません。そうなればドル円のロングは2023年は厳しいです。こうした流れを見据えて、裁量もEAも取り組んでいます」
─既にドル円は円高傾向ですが、仲値系EAは通用しそうですか?
「一概には言えないですが、難しいと思います。例えば、2008年付近は仲値系のEAがほとんどのロジックでズタボロになりました。優れたEAだと言われていたものでも、とても深いドローダウンを起こしています。そのときのドル円のチャートは円高でした。だから円高トレンドが始まると、仲値系EAは弱いと予想しています。
僕が運用しているEAに限れば、過去のデータを見ると2013、2016、2022年がトップ3で良い収益で、その他の年は半分の収益になります。2023年は2022年のロットで行っても、半分しか稼げないですし、リスクを加味してロットを下げるとさらに稼げません。つまり、2022年と同様のパフォーマンスは期待できないということです。2022年と同じ期待感でいると、2023年は振り回されると思います」
裁量トレードとEA。結局、どちらが良いか
─EA運用でうまくいったのは、何が良かったからだと今振り返って思いますか?
「大きく二つあります。良いEAを作っている開発者の存在に恵まれたことと、開発者の作ったEAの数値分析を自分でしっかり行っていることです。データを取って数値を分析をして理解を深めることで、自信を持ってEAを運用できました」
─EA運用においてデータ分析は大事なんですね。ではEA運用の醍醐味は何でしょう?
「客観的事実を基に全て説明可能なところです。EAは勝っても負けても必ず根拠があって理屈で説明できます。裁量は人によって相場観も違いますし、そこがなかなか難しいです。裁量は職人技なので、ロジックに落とし込みにくいですが、EAはデータを前提に話すわけですから主観がぶつかりにくいです。客観的なデータを踏まえた上で、どう立ち回るかは裁量的な要素ですけど」
─過去のデータを取って分析できるのがEAの強みと言えそうです。
「そうですね。データ分析では、まずバックテストのデータを見て、次にフォワードのデータと比較していきます。過去にこのくらいのドローダウンが存在していたなら、今あるドローダウンは自分にとって深く感じるけれど、過去相場においては別にそうではない、といった事実が分かります。現在のドローダウンを乗り越えた先にこの成績があると理解していれば、淡々と運用を続けられます。それがないと大きく資金を入れられないし、優秀なEAでもパフォーマンスが発揮されません」
─なるほど。続いて、短期的な裁量トレードをやらない理由を教えてください。
「アクティブな裁量トレードは、相場に張り付く時間が自分にとっては長いです。その時間的拘束が嫌ですね。『なぜお金を増やしたいのか?』『なぜトレードをするのか?』という原点を省みると、時間的自由と金銭的余裕が欲しいのであって、それはEAでも達成できると思います」
─確かに毎日チャートに張り付くのは大変ですよね。
「『チャートを今見ておかないとチャンスを取り逃がしてしまう!』と考えると、お酒を飲んでいるときなどでも相場が気になってしまいます。自分の人生をそこまで相場に費やしたいとは思っていなくて、自分はどちらかというと遊んだり、人と会ったりしたいです。また、裁量トレードは負けたときに辛いのも大きな理由です。そういうところで自分には合わないですね」
─時間的拘束は、ある意味労働と変わらないと思います。裁量トレーダーで勝つ人は格好いいんですけどね。
「裁量を極めている人に比べて、自分はそこまで相場、トレードに熱量がないです。ただ、自動売買がなかったら頑張っていたかもしれません。もちろん裁量の職人技はリスペクトしていて、別にEA運用でマウントを取るつもりはないです。どちらもメリットとデメリットがありますし、むしろ生半可な気持ちで裁量トレードをするのは失礼だと思っています。外でも遊びたい、時間が欲しい、自由が欲しいのであれば、『FXじゃなくてよくない?』『裁量じゃなくてよくない?』と思って、裁量から距離を置いて線引きをしました」
─相場やトレードが好きだったらいいんですよね。僕としては、体力や集中力が裁量では重要、だから若い方が有利だと考えています。自分はその点で衰える一方ですね。自動売買でデータ分析ができるのはメリットですが、他にメリットはありますか?
「きちんと勝てるEAがあるのが大前提ですが、設置さえすれば、名前の通り自動で売買して勝手に資産が増えます。自分がほとんど労力を割かずに資金を増やせるのは大きな利点です」
─反対に自動売買の課題やデメリットは何ですか?
「EAに対する知識や理解がとても重要だし必要です。それがなさすぎるとEAを使いこなせません。使う側がEAを見極められることが大事です。EAに対する理解が浅いと、目の前の結果だけで右往左往して運用を止めてしまったり、EAに振り回されます」
─耳が痛いですね…。身に覚えがあります。
「EAは玉石混交なので、良いものを選び取る目利きは必要です。そこでだめなものをつかんでしまうと、大枠でEA=だめとなりやすいですね。これは大きなデメリットです」
─裁量トレーダーの中には、EAや自動売買そのものに否定的な人も少なくないですよね。
「それって、EAに対する理解がないから起こり得ると思うんですよ。EAは他責思考になりやすいです。売る側も、『EAはお金が増える!』という面ばかりにフォーカスするのが良くないです。運用の知識が学べる場が、まだそんなに多くはないですしね」
EAのトレード方針は必ず把握しておく
─EAはバックテストの見方が重要だと思います。これからEA運用を始めるにあたってコツがあれば教えてください。
「どのEAが良いか、というのはいったん置いておきますが、どんなEAでもEAへの理解をしっかり深めること、バックテストなどの数値分析をしっかりすることが大切です。今から始める人はSNSが参入のきっかけという人も多いと思うので、情報発信している人や開発者がどんな人か調べて知ると良いでしょう」
─ロジックに関してはどうですか?
「ロジックはいろいろあるんですけど、ロジックがどのジャンルに属するのかを知ることは大切です。大体の開発者は販売ページにジャンルを書いています。これはスキャルピングのEAですよ、仲値のEAですよ、どの通貨ペアに対応しているEAですよ、という部分です。エントリーするポイントや状況がEAによって決まっているはずなので、どんなエッジを取りにいくかを把握しておくこと。そして、そのEAはどういう局面でエントリーされやすいのかを理解するのも大事です。
仲値系のEAの場合、夜中に買いエントリーして仲値に向かって決済するロジックが多いですよね。エントリーする日や時間は開発者によってバラバラですが、大枠の部分を知っていれば、昼前から稼働したのに1日ずっとエントリーしないのはなぜ…というような初心者あるあるを避けられます。最低でも、自身の使うEAがどの局面でエントリーするのかは押さえておくべきです。ちゃんと動作しているのに『エントリーしない』って言っている人もいるんですよね」
─ナンピンについてはどうですか?
「ナンピンマーチン型にしても、どういうものかまず調べるべきです。リスクがあることを把握するのとしていないのでは全然違います。そこの理解度は重要なので、分からないないものに投資してはいけないと僕は思います。EAは株式の銘柄と同じです。株を買う場合、会社のことを調べるし、決算書も見ますよね。EAの理解を深めるのも、こうした銘柄選定に近いです。まずはEAの売買の方針を理解するところからです。これは投資の基本です」
─バックテストの秘訣はありますか? バックテストにTDS(Tick Data Suite)を使っている方が多いと聞きます。
「賛否両論ありますが、TDSが絶対とは思っていません。あった方が良いですが、それだけでバックテストを取れば良いか、というと決してそうではありません。さまざまなヒストリカルデータで検証するのが理想、というのが自論です」
─ヒストリカルデータが使えるブローカーもいろいろありますが、どこが良いんでしょうか? ブローカーごとに結果が違いますよね?
「直近の例では、クリスマス明けの月曜日(2022年12月26日)は、大体の業者が止まっていました。TDSでバックテストを取ると、デューカスコピーは決済されますが、業者によっては決済されません。それぞれのヒストリカルデータには良いところと悪いところがある、というのが僕の意見です」
─MT4のバックテストについてはいかがですか? データを見てもよく分からないんですよね。表示もずれてて分かりにくいし、月や日ごとの分析もできない。分析ソフトを使った方が良いんでしょうか?
「僕もMT4のテスターレポートが大嫌いなんですよ。なんか論文を見せられているような気分になるんですよね。数値分析はアナライザーソフトを使うのが一番手っ取り早いです」
─バックテストでまずここは見ようよ、という部分をいくつか教えてください。
「リターンもそうですが、ドローダウンの部分ですね。最大ドローダウン、ドローダウン期間の長さ、そしてそれを実運用に当てはめたときに耐えられるのか、辛抱できるのかに注目します。これらはずっとEAを稼働させる上で大事なポイントです。あるリターンを得るためにどのくらいのリスクを許容できるかは、投資する側が必ず把握するべきです。EAの性能よりもロットや資金管理が重要で、『このくらい稼ごう!』ではなく、『このリスク許容度で、ここまで稼げれば良い!』という考え方を僕はしています。そこを度外視するのは危ないです」
─誰に聞いてもドローダウンが重要だとおっしゃいます。ドローダウンを基準にリスク許容度を設定するわけですね。
「そうですね。5〜10年でバックテストして、資金もしくはロットを調整するのが基本です。ドローダウンを基準に考えないと、精神が持たなくなりますよ。10年で資産が倍にしかならないのに、途中で何度も大きなドローダウンがあると考えるとしんどいじゃないですか。ドローダウンに耐えられなそうなら、そのEAは無理して使うことはないです」
─10年間バックテストして、ドローダウンはどのくらいが最低ラインですか?
「バックテスト上で20〜25%くらいが理想です。わがままを言えば10%で、25%が頻発するとちょっとまずいかなと思います」
ユーザー同士の競争ではなく界隈全体のリテラシー向上を
─たっくんさんは目先のお金にならない活動もされていますけど、どんな思いでやっているんですか?
「評価をされるべき人が正当に評価されてほしいという想いからです。受け手のリテラシーが上がることで本当に価値があるものを見極めることができるのではないか。EA利用者の1人でもある自分だからこそ伝えれるものがあると思っています」
─この活動をしていて、良かったことと悪かったこと、それぞれ教えてください。
「良かったことは、少なからず感謝してもらえたり、取り組みに賛同してくれる人からの協力を得られたことです。自分の声を届けやすくなったのは良い面ですね。悪かったことは、これといってありません」
─チンピラみたいな人は絡んできませんか?
「アンチに気がついてないだけかもしれませんが、自分に直接絡んできた人はいないですね。EAに関することは理屈で説明可能なので、全部教えます。そこは開発者にとっては負担なので、自分がやっているというのはあります。自分は大御所ではないので、絡む価値がないと思われているのかもしれません(笑)」
─今後の目標はありますか?
「FXリテラシー向上が目標です。ユーザー同士が競争するのではなく、『共創』していく。あくまでも競う相手は悪質な商材を売っている人たち。そのためには、業界全体での協力が必要不可欠だと思います。そんなきっかけを作っていきたいです」
─そうですよね。今はFX業界の成熟期で、トレーダーのレベルも情報発信者の質も上がっていると感じます。本日は貴重なお話をありがとうございました。
インタビュー日◎2023年1月19日
たっくん 自動売買の心得まとめ
①2023年は相場の流れが大きく変わり、アノマリー系EAは苦戦する可能性あり
②客観的なデータを前提に、どう立ち回るかがEA運用の本質
③EAへの知識や理解がないと使いこなせない。また他責思考になりがち
④バックテスト結果は、ドローダウンが何より大切。ドローダウンに耐えられないなら運用は続けられない
⑤開発者と協力しながら、業界全体を底上げしていく!
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