詐欺撲滅を掲げ、さまざまな詐欺集団への突撃動画が人気になっているKENZOさん。
詐欺集団が逮捕されるという「成果」もあげた彼がなぜ、詐欺の撲滅に力を込めるのか、そして対峙してきたこそ得られた詐欺師の特徴、注意すべき点について最新事情も交えてお聞きしました。
【新宿109】KENZO(けんぞう)氏プロフィール
「詐欺師の撲滅」を掲げ、日々体を張って活動するYouTuber。チャンネル登録者79万人。自身もマルチ商法の被害に遭った経験から、世の中から悪質ビジネスによる被害者を減らすことを一貫した活動目的としている。マルチ商法グループのセミナーへ突撃した様子を記録した潜入動画は報道でも話題になった。
聞き手◉鹿内武蔵 本文◉田中タスク
この活動をひと言でいうと投資詐欺撲滅の活動
─最初にKENZOさんのことを知らない読者に向けて、活動内容の紹介をお願いします。
KENZO(以下・K) ひと言でいってしまうと、投資詐欺の撲滅活動です。主にYouTubeに詐欺師への突撃や詐欺の手口を解説する動画を投稿して注意喚起をしています。現場への潜入など面白さや分かりやすさを工夫することで、より多くの人に啓蒙できるように意識しています。
─YouTube以外にも活動はされていますか?
K X(旧Twitter)やインスタグラムなどですね。こうしたSNSを活用することで、よりたくさんの人に僕の活動を知ってほしいと思っています。
─今の活動を始めた経緯や、参考にしたユーチューバーがいれば教えてください。
K 今とは全然違うジャンルを目指していました。ナンパ系やマッチングアプリのお持ち帰り系など、バラエティ性に富んだユーチューバーを参考にしていましたが、そのジャンルでは売れず、今の活動にシフトしました。とはいっても3か月程度の活動でしたが。
─ネットに出ないような活動もあれば教えてください。
K 基本的にYouTubeがメインで、お金もそこで稼いでいるわけですが、被害者から頼まれてお金を返してもらいにいくようなこともあります。もちろん被害者のお金が優先なので、加害者側からお金を返す代わりに動画を消せ、と言われれば動画を消します。そうなった場合は、利益にはなりません。また、自分のポケットマネーで交渉に行ったりしたこともあります。
学生時代に自分も騙されてそれが活動の原点に
─今の活動をするようになったきっかけはどんなことですか?
K 2年制の短期大学に通っていたんですが、卒業間際にバイトを辞めまして、残された時間でどう稼ぐかと考えたときに、安直に思い至ったのが投資でした。図書館に行ってFX、株、不動産などの本を読みまくって勉強しました。そんなときに声をかけられて、「稼いでいる人を紹介する」と紹介されたのがマルチ商法の人でした。
当時の自分はマルチ商法のマの字も知らなかったので、まんまと引っかかって60万円の損失です。社会人になって転職先の同僚からYouTubeの世界に誘われて、先ほどのバラエティ系動画を配信したりしていたんですが、それを辞めたときに「そういえば騙されたことあったな」と思い出したのがきっかけです。
─当時のKENZOさんが引っかかったのは、どんな手口だったんですか?
K ハワイの不動産投資という案件でした。そこからキャピタルゲインとインカムゲインを渡すという内容だったんですが、それがまさにポンジスキームだったんです。先輩の指摘で詐欺と気づいて、60万円のうち40万円は取り戻すことができました。今にして思えば、比較的軽めの勉強代でしたね。
─KENZOさんの動画を観ていると、すごい根性、行動力だと感じます。最初からあんなに肝が据わった突撃をされてきたんですか?
K 全くそんなことないんです。小中高と野球をやっていて、グレることもなく真面目な少年でした。不良、喧嘩というイメージとも無縁で。同級生よりも精神年齢が高いというか、俯瞰的に物事を見ていた部分すらあったかなと思います。
ヤンチャっぽく見られるのは、突撃スタイルで活動している以上、少しは怖がってくれた方が好都合だからです。これって反社とかヤクザ系の人と同じですよね。そのためにあえて黒い服を着たり、言葉遣いなども工夫しています。その結果、「ケツモチ(暴力団などの用心棒)がいるんじゃないか?」と言われたこともあります(笑)。ある意味、ブランディングの成功ですね。
というわけで、もともと悪いことをしてきた人ではありません(笑)。
─もちろん悪人だとは思っていません(笑)。それでもあの手のセミナーに突撃するのは勇気がいることだと思います。やっていくうちに慣れるものなんですか?
K はい、慣れます。もちろん最初はドキドキしました。閉鎖的な空間で、1対多数。そんな場面ばかりですから。何をされるか分かりませんし、僕自身が警察にパクられるかもしれない。
─それでも活動を続けていくモチベーションは悪い連中を許さないというところから湧き上がってくるのですか?
K この活動を進めていく中で、いろいろな被害者を見てきました。一番有名なのは、ジュビリーエースに騙された女の子が自殺してしまった事件です。今も親御さんと連絡を取っていますが、その恨みは消えていません。
もし自分が家庭を持って息子、娘がそんな被害に遭ったら、自分自身で詐欺師をボコボコにしにいくと思います。詐欺は人の命を奪うほど悪質なもので、だからこそ撲滅したいというのが僕の信念です。
─FXも詐欺に利用されやすい一面があります。業界の仕組みを知れば騙されることはないはずなんですが、実際には騙される事例が多くて嫌悪感があります。お金のない人がターゲットになるのも許せないので、KENZOさんの活動を応援したい思いがあります。
K 詐欺師は、良いものを悪く使います。誰かの名言をうまく使って説得力があるように見せたり。FXでいえば、自動売買ツールを売っていて、特定のリンクを踏まないと使えないといった手口を目にしたことがあります。これっていわゆるIB報酬ですよね。無知だったころは分からなかったことが、今では点と点がつながってきています。
─「悪い人」には、独特の引力があるように見えます。投資もダイエットも受験も。楽をしたい、目的がかなうことにも強い引力があるんでしょうね。
K 両面からの引力があると思います。不安な気持ちと、もしかしたら稼げる?という期待感。この両面からお金を出してしまう人が多いように感じます。トレカなどのパッケージと一緒で、開けないと中身は分かりません。自動売買ツールも使ってみないと分かりませんし、オンラインサロンや情報商材も然りです。宝くじを買うような感覚もあると思うので、ある面では結局はギャンブルなんですよね。
あえてこの言葉を使わせてもらいますが、情報弱者(情弱)の知識を底上げしないといけないと思っています。そのために過激な演出や面白さ、ユーモアを採り入れつつ動画を作っています。
─KENZOさんの活動が詐欺師の逮捕につながったことがありますね。
K 厳密にいうと直接ではないですが、詐欺グループの幹部の逮捕につながったことがあります。警察も動画を観ているらしいですしね。
マーケットピーク事件は、「たまたま」ではなかったと思います。突撃してから動画はストックとして残しておいて、それまではSNSで叩きまくっていました。そうしていると、大手メディアから連絡が届いたんです。マーケットピークについて教えてください、と。そこでメディアに情報や映像を提供したら、テレビで流してくれました。放送日を教えてくれたので、もしかしたらその日が逮捕のXデーかもしれないと推測し、その日に合わせて動画を投稿したらバズりました。警察の捜査と直接連動しているわけではなく、間にメディアが入っていたというイメージですね。
─それ以外にもメディアからの注目度は高くなっているんですか?
K そうですね、取材がボチボチ入ってきたりしています。そこから新たな事件に発展するようなものがあるかもしれません。
印象に残っている悪党について語る
─これまでの活動で印象に残っている事件があったら教えてください。
K 一番に思い浮かぶのは、あるティックトッカーです。まず子どもや中高生にスニーカーを買ってあげると持ち掛けて「いいお兄さん」を演じ、次に集まった子たちに対してオンラインサロンに入会したら稼がせてあげると持ち掛けます。そういった甘言で海外FX業者のIBリンクを踏ませて、最終的に口座開設をさせるといった手口でした。無登録業者の口座開設、取引あっせんは金商法違反です。あたかもいい人を演じて情弱を騙しているのが悪質でした。
─稼がせてやるといいながら、そんなのに限って根拠は乏しいんですよね。
K そうです。投資の成績は一切見せず、エビデンス性のある情報は皆無です。こういうのはキラキラしているように見えても、具体的に何で稼いでいるのか分からないケースが多いので、そこを見極めてほしいですね。怪しいやつには近寄らないのが大前提、儲かる話には裏がある、と昔から言われている通りです。それでも引っかかる人はいるので、僕の動画で目と耳を使って知ってほしいです。
─国内のまともな業者が怪しげな連中と組むことはまずないですよね。
K ないですね(笑)。先日、ある海外の無登録業者のパーティに行ってきました。突撃しない約束で、社会勉強の一環として行ってみたんです。今後日本でどう仕掛けていくかという段階のパーティで、実際に体験してみると今後の活動に生きてくる経験値を得られたように思います。
─ダイエットをしている人にお菓子を食べるなといっても食べてしまうでしょう。海外FXには問題があると分かっていてもやってしまう人は後を絶ちません。
K それは駄目だといっても、やってしまう人はいます。ですから、法律でなぜ規制されているのか、自分へどう不利に働いてくるのか、そこを知ることが大事だと思います。僕も全部を知っているわけではないので、その分野では力不足を感じることもあります。実際、日本語のページがあって日本語のサポートまであるのですから、安全なサービスと勘違いしてしまいますよね。
─他に印象に残っている事件はありますか?
K もう一つは、やはりマーケットピークです。僕の動画の中でも再生回数が最も伸びています。この突撃をしたときは、今よりも経験値、度胸がありませんでした。そんな中で大阪のセミナー会場に突撃したところ、100人はいませんでしたが、それなりに人数もいました。最後に違法性について質問しようと思い、「はい、質問!」と代表に突撃したんです。相手の表情や対応などが明らかに変化したので、動画ならではの伝わりやすさがあったと思います。
洗脳されている人たちは同調圧力もあって、面白くないものにも笑ったりしている風景になっていましたが、それもしっかり伝えられた動画になったと思います。僕が突撃しても会場では誰一人として僕を信用していませんでした。実際自分が大金を出して参加しているのだから、「詐欺だ」と言われても認めるのは難しいと思いますが、だからこそ攻めました。
─すごい根性での攻めっぷりでしたね。
K 思いは一つ、目を覚まさせることです。こういう社会をナメているようなやつらに稼いでほしくないとの思いもありました。「違法に荒稼ぎしやがって」という嫉妬もあったと思います(笑)。
価格と商材の中身が見合っていない、世間から反感を買うようなビジネスであることは明白なので、その一心で攻めたと思います。
─投資側、FX側の人間として投資で負けることはあると認識していますが、投資詐欺は負け方の悪さが気になります。
K 詐欺の場合、負け確レースに参加しているようなものですからね。儲かるのは詐欺師連中や、きっと反社勢力などでしょう。
健全な投資で負けるのであれば仕方ないですが、次々と新しいマルチや詐欺商法が立ち上がってきます。突撃するたびに違う名前やスキームになっていますが、根っこは同じです。
─FXや暗号資産など、今はどんな詐欺が多いんですか?
K FXよりも暗号資産入金のマルチがとても多く感じます。僕が標的にしている悪徳マルチは、USDTに換えて入金させるので足がつきにくく、そのあたりは悪質だと思います。警察もこうした手口に追いついておらず、詐欺として立件しにくい現実があります。
悪い人たちの最大の特徴はセミナーを開いていること
─いろいろな悪党と対峙してきたKENZOさんから見た、彼らの特徴や傾向を教えてほしいです。
K 彼らは、必ずセミナーを開きます(笑)。オンライン、オフライン関係なくセミナーが大好きです。僕の動画にもその傾向は表れているので、僕の動画を観ていればセミナー会場などの風景が「どこかで見たことのある風景」に見えるはずです。
あと、分かりやすくブランドものの服やカバン、時計などを身につけていることですね。ワンポイントのような可愛いものではなく、あからさまに主張するような身なりです。
─逆に引っかかりそうな人の特徴はあるんですか?
K あえていうと、生活が充実していなさそうな人です。いかにも情弱と言われそうな人も含まれます。あくまでも一般論ですが、イケメンや美女は他のことで充実しているので、あまり見かけないです(笑)。
─年齢層については、どうですか?
K 最近は騙される人の年齢層が高めです。以前、ICO関連の手口が流行っていたころは若い人が多かったんですが、最近突撃したところは高齢者が多く、この世代が狙われているのかなと感じます。高齢者にとってよく分からない暗号資産を悪用して騙しているケースが目立ちます。
─明らかに怪しいのに入金してしまうのはなぜだと思いますか?
K この世代の人たちには、紹介者がいます。紹介者の顔を潰したくない、付き合い的な要素もあって断り切れないといった感情もあるのでしょう。そして宝くじのような感覚もあって、実際にリターンがありそうなところを見せられると本物だと思ってしまうんです。最終的にカタカナの難しい言葉をたくさん聞いて面倒くさくなってしまって、判断能力が落ちてしまうのかもしれません。
─セミナーの流れや話題などに特徴はありますか?
K 最初は講師が自己紹介をしつつ、ちょっとユーモアのある話を披露します。そして商材の紹介をして、あなたの紹介した人が入会すればあなたにお金が入ります、という具合です。あと絶対にあるのが、成功体験です。昔の貧乏話、苦労話から始まって、そこから僕は成り上がった! というサクセスストーリーを語ります。本当は人を騙して稼いでるだけなんですけどね。
─海外在住アピールなどは多いですか?
K 日本をマーケットにしていれば、基本、日本在住が多いイメージです。ドバイやシンガポールなどで誰々と会った、とかはよく聞きます。
─KENZOさんの動画を観れば、そういうお決まりのパターンが分かるということですね。
K はい、分かると思います。若い人に多いのは、マッチングアプリを使った手口です。アプリで知り合った人に会いに行ったら相手がマルチの女で、最初は軽く投資の話でジャブを打ってきます。2回目にもジャブを打って、少し興味がありそうな感じになると「社長を紹介しようか?」となります。3回目にはその社長なる人物と女、被害者の3人が会って勧誘されるというパターンです。
そのきっかけはマッチングアプリだけでなく、居酒屋、街コンなんかもあります。人が集まるところには、マルチがいます(笑)。
政界進出も含めて詐欺の撲滅を進めたい
─今後、実現したいことを教えてください。
K 高齢者が狙われているので、その分野の詐欺撲滅をしていきたいです。動画配信だけでなく、チラシを作ってポスティングなんかもやっています。病院など高齢者が多い場所にチラシを置かせてもらったりといった活動もしています。
活動内容を考えると、YouTubeのアカウントをBANされたときのことも考えておかないといけません。具体的な党などは何も決めていませんが、いつか政治家としての立場で詐欺の撲滅もやっていきたいですね。
最終的な目標は、教科書の1ページに何かの功績を残した人として載ることです。僕の活動によって、詐欺師が損をする社会を作っていきたいです。
─今後の活動において気をつけておられることは何ですか?
K これまでの活動によって、マルチ業界では僕はかなり警戒されています。顔を知られているので潜入や突撃が難しくなってきています。相手が歓迎してくれるわけはないので、不退去罪にならないギリギリの線で突撃するなど、注意はしています。普通に建造物侵入罪にもなる可能性がありますし、いつかは捕まると思ってやっています(笑)。
─動画では警察を呼ばれても動じない、むしろ呼べというスタンスですよね。
K 長くこの活動をやっていると、「ここまでは大丈夫」と言う自分が超えてはいけないラインが分かってきます。ただ、東京では大丈夫でも地方だと大ごとになってしまうようなケースがあります。新宿だと現場の警官2人が来るだけのようなことでも、地方だと大勢の刑事がやってくる、みたいな。東京の警察は忙しいんですかね?
─FXや暗号資産の詐欺やマルチといわれても、警察も分からないのではないでしょうか。
K そうだと思います。警察もそこまで理解している人がいないのではと感じます。大阪府警と九州の警察はすごく頑張っているイメージですが、東京では同じような事案であまり逮捕者が出ていないイメージがあります。
投資は自己責任、そして正攻法で
─FXの雑誌なので、投資の世界で頑張る読者に熱いメッセージをお願いします。
K 海外FXは感心できない存在ですが、現状では利用者が罪に問われることはありません。IB報酬を踏もうが、それも自己責任です。家族や大事な人がいる人は、特に投資のリスクをよく考えてほしいと思います。一発逆転を狙うような考えだと詐欺に遭うリスクも高くなります。正攻法で投資をする個人投資家を、僕も応援しています。それで億万長者になったら、おごってください(笑)。
─ありがとうございました。
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