朝のスキャルピングではより長い保有時間が適切
第2回では、朝のスキャルピングに注目します。EA(Expert Advisor)の開発には多くの書籍を読み、さまざまなサイトを訪れました。特に印象的だったのは「朝スキャ」です。これは、限られたトレーダーのみが知る伝説的な手法のような存在です。
では、この「朝」とは具体的にいつを指すのでしょうか。また、「スキャ」はスキャルピングの略で、数秒から数分程度の短い取引を繰り返す手法と知られていますが、実際にはどれぐらいの時間ポジションを保有するのでしょうか。そして、どんな戦略を用いた取引なのでしょうか。これらの疑問に答えるために、過去のデータを分析し、取引時間、ポジション保有時間、戦略などを掘り下げます。
価格の変化は、ポジション保有時間が長ければ長いほど大きくなる傾向があります。しかし、スキャルピングでは、数秒から数分の短い時間で、スプレッドやスリッページといったコストを上回る利益を生み出すことが可能か疑問です。これを解明するため、ドル円の1分足の過去データから価格変動を分析しました。
表①は、その変動量です。この表では、変化量を1分間の高値と始値の差、および始値と安値の差の大きい方で計算しています。この方法により、為替レートの短期間での最大変動幅を捉えることができます。
スプレッドやスリッページなどのコストを1pipsとすると、1分間で1pips未満の変動は手数料を上回らないことが分かります。1pips未満の変動は約40%、手数料以下の利益である2pips未満の変動は約70%を占めています。
このデータ分析から、1分以内のスキャルピングにおいて利益を上げることが極めて困難であることが窺えます。短い時間枠では、スプレッドやスリッページのコストを上回る利益を得るのがほとんど不可能であるため、1分以下の取引は実用的ではないといえます。
さらに、5分、15分、30分、1時間足のデータも同様に分析しました(表②)。
この分析から、15分未満の保有時間では、利益を得るのが難しいことが明らかになりました。これは、短期間では市場の変動が限定的で、取引コストを上回るだけの利益を得ることが困難であるためです。また、実際の取引において、常に最高値や最安値でポジションを閉じることは現実的ではありません。このため、実際には15分以上のより長い保有時間が適切であると考えられます。
活用すべきは平均乖離とトレーリングストップ
次に、「朝スキャ」の「朝」について考察します。短期の取引ではレートの変動が活発な時間帯が有利になるため、時間別の変動を検証しました。ドル円のレートは特に以下の時間帯にピークを迎えます。
①東京市場仲値(日本時間・9時55分)
②欧州市場開始時間(英国時間・8時)
③ニューヨーク市場開始時間(ニューヨーク時間・10時)
これにより「朝スキャ」の「朝」は各市場の開始時間と関連付けることが可能です。また、各国の重要な指標発表もこの時間帯に集中しています。
適切な戦略についても考察しましょう。オシレーターはレンジ相場での取引に適しており、一方でトレンドフォロー型は動きのある市場で有利です。特に、短時間取引を行う「朝スキャ」では、大きなレートの変動を捉えることが非常に重要です。トレンドフォロー型の戦略がここでは適しているといえるでしょう。
私のEA開発経験からの一つのヒントとして、トレンドの早期検出には平均乖離が特に効果的であることをお伝えしたいと思います。また、短時間取引において利益を確実に確保するためには、トレーリングストップの利用が有力な選択肢となります。
朝のスキャルピングについてさまざまな角度から深く掘り下げて考察しました。分析の結果、15分以上のポジション保有時間が有利であること、市場の活性化時刻の重要性、そしてトレンドフォロー型の戦略の適合性について言及しました。
しかし、この分析はあくまで一つの視点に過ぎず、「朝スキャ」にはまだまだ多様な手法が存在することを念頭に置いてください。また、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析、さらには取引情報や個人の経験も取引の成功には不可欠です。今回の情報が、あなたの取引戦略の一助となることを願っています。
FX雑誌「外国為替」vol.13
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