世界最高額面のコイン「ドイツ1兆マルク洋銀貨」｜アンティークコインのきほん［ゆったり為替］

1兆マルクの巨額コイン

　世界にはさまざまな額面のコインがあります。日本の通常貨幣の最高額面は500円なのに対し、世界最高額面は1923年にドイツのヴェストファーレン州で発行された1兆マルク洋銀貨です。ちなみに、洋銀貨とは銅や亜鉛などの合金を指し、銀貨ではありません。

　このコインの直径は60㎜と巨大で、500円硬貨の26.5㎜と比べて2倍以上もあります。また、発行枚数は1万枚程度ですから、発行当時の輝きをそのまま維持しているコインを探すのは意外に難しく、収集する価値があります。

ドイツ1兆マルク洋銀貨 — 画像提供：株式会社ダルマ　※画像は加工処理しています

　コイン画像上側の人物はプロイセン（ドイツ）の政治家、ハインリヒ・フリードリヒ・フォン・シュタインです（1757年─1831年）。ヴェストファーレン州の出身で、ナポレオンによって国土が半減したプロイセンで活躍し、近代化に尽力しました。しかし、ナポレオンの不興を買ってしまいオーストリアに逃れます。その後ロシア皇帝に招聘されてナポレオン打倒に協力し、ナポレオンは最終的に敗れました。この人生を受けて、コインの周囲には「ドイツの困難な時代における指導者、フォン・シュタイン大臣 1757─1831」という文字が書かれています。

　コイン画像下側は、ヴェストファーレン州の紋章の馬です。周囲には「ヴェストファーレン州緊急貨幣 1923」とあります。

コイン発行当時のドイツ

　1918年、ドイツは第一次世界大戦で敗北。そして懲罰的な条約を結んだ結果、経済が行き詰まって1923年にハイパーインフレーションが起きました。このコインが発行された時期は、額面で1兆マルクが必要になるほどハイパーインフレーションが進んだころです。

　この時期、紙幣や預金で資産を持っていた人は、ほとんどが貧困に陥った可能性があります。円で例えるなら、資産を1億円持っていたはずが、いつの間にか0.1円未満になっていたということだからです。その一方、貴金属は国家の信用にかかわらず価値を持つため、金貨や銀貨で資産を持っていた人は、難を逃れたことでしょう。このコインの肖像にハインリヒ・フリードリヒ・フォン・シュタインが選ばれた理由は、彼にあやかって困難な時期を乗り越えようとしたからかもしれません。

　ちなみに、この貨幣はインフレーションの経過に合わせてさまざまな額面で発行されています。最低額面の50ペニヒ（0.5マルク）から1兆マルクまで全部で20種類ありますから、全種類集めて楽しめるのが魅力の一つです。