トラリピ(マネースクエア)に代表される、リピート系自動売買の情報発信者として確固たる地位を築いている鈴さんにとっての相場観とは、台風の進路予想であるとのことですが、その心は? あえて裁量トレードをしない鈴さんだからこそ、一定の層には間違いなく参考になる相場観についての考え方です。
聞き手◉鹿内武蔵/本文◉荻田里佳
鈴氏プロフィール
会社を辞めたくてFXを始めたが、2015年末からの半年で500万円の損失を計上。そこから必死に勉強してトラリピで生活費を稼げるようになり、2018年9月に退職してセミリタイアを実現。さらに、2021年6月に田舎でスローライフを開始。【書籍】黄金の卵を産むニワトリの育て方 FXトラリピ最強トレーダーの投資術
ワイドレンジの設定にはショック相場を組み込む
─鈴さんといえば、マネースクエアのリピート系自動売買「トラリピ」を使って好成績を収めていることで有名ですよね。さっそくですが、まずトラリピを用いた稼げる仕組みの作り方を教えてください。
私のリピート系自動売買の戦略では、ワイドレンジに仕掛けるか、ナローレンジに仕掛けるか、どちらを選択するかで成績が変わってきます。まず、ワイドレンジは相場を予想せず、幅広いレンジに仕掛けて運用していきます。5年や10年、20年と、値動きを見る期間は人それぞれで、リスク許容度で範囲が変わります。ちなみに、私は過去15年分の価格を参考にしました。いずれの期間を選択しても、長期的に見て高値圏だったら売りを仕掛ける、安値圏にあれば買いを仕掛けるというやり方です。
─そこに世界情勢などは加味しないんですね。
そうですね。ワイドレンジではファンダメンタルズを考えなくて済むのがメリットです。ユーロ円は例外ですが、他の通貨ペアは直近の金融ショック相場を想定に入れたかったので、基本的にリーマン・ショック(2008年)以降の変動が全てレンジに収まるように設定しています。
─なぜユーロ円は外したのか、教えてください。
ユーロが導入されたのが1999年ごろで、ヨーロッパの国と地域がEUの参加国になるという考え方も、通貨統合されて共通の通貨を使うということも新しいと解釈しました。だからこそ、リーマン・ショック時にユーロ円が170円近くまで上昇したのは、ユーロが過大評価されていたと考えたんです。ところが、ユーロ円を例外にしたことで今は困っていて……。金利差の影響で、今年は一時ユーロ円が157円台になり、リーマン・ショックの時以来の価格帯になってしまいました。勝手な解釈で例外を作らないことが大事という教訓になりましたね。
─ワイドレンジの設定範囲は何を考慮して決めているんですか?
既に述べたように、直近のショック相場を入れることです。コロナショック(2020年)でも相場は大きく動きましたが、コロナは金融ショックではないですよね。そう考えると、直近の大きな金融ショックはリーマン・ショックでした。また、今後金利などの影響でショック相場が形成されれば、それがレンジに入るように設定を考えると思います。
当たれば利益は大きく外れれば損失も拡大
─次はナローレンジについて教えてください。
ナローレンジでは、相場の予想に沿って仕掛けていきます。「ナロー」といえど、レンジが狭いわけではなく、大きなトレンドに乗るイメージです。例えば、2022年は米国の利上げが先行した影響で米ドルが最強になり、日本は金利を据え置きし、円が一番弱くなりました。これを2021年の後半に予想し、米ドルの買いで勝負しようと決めたんです。その結果、ドル円が115円のときに仕掛けることができて大きな利益につながりました。
─強力なトレンドに乗れたのは大きいですね。今年はどんな相場になると予想していますか?
2023年は昨年の逆で、揺り戻しが起こると思っています。円が最強で米ドルは最弱になるのではないか……。クロス円の売りで一番強いのはドル円になると予想していましたが、実際にはその通りになっていません。米国の利上げ幅が残りわずかになってきた一方で、EUや英国の利上げ幅が大きくなり、クロス円全般で円高にはなっていないのが現状です。今のところ予想が外れているので、含み損と損切りが出ています。
─ナローレンジでのトレードは、相場予想が的中すれば大きな利益に、外れれば損失が大きくなるんですね。
そうです。しかし、予想はまだ完全に外れたとは思っていません。むしろ、流れとしては間違っていないと考えています。今年中には円高の流れが来るとは思っていますが、まだそのタイミングが来ていないというのが持論です。各国の利上げ方針を確認すると、相対的にEUや英国の利上げ幅が大きいとはいえ長くは続かないはず。現在行われている円キャリートレードの流れが反転するのを待つだけです。
─ドル円は、昨年10月に高値をつけて円高に向かうトレンド相場になりましたが、127円付近を境に再び円安へ向かいましたよね。これも想定内でしたか?
いったんは戻ると思っていました。ただ、それが短期的な動きでは終わらず、再び円安トレンドが再開したのは想定と反しました。ユーロ円やポンド円の円キャリートレードも、そこから活発になった印象があります。
相場観が的中すれば利益大、しかし外れると損失も拡大
─もともと鈴さんはワイドレンジでトラリピを運用されていたイメージがあります。ナローレンジを始めたきっかけを教えてください。
実は、今まで話していた相場観は私が予想をしているわけではなく、マネースクエアの「スリーミリオン倶楽部」から提供された情報を基に、私なりに解釈したものです。スリーミリオン倶楽部は、預託証拠金が2000万円以上で、四半期の取引高が600万通貨以上、または四半期平均のポジション残高が200万通貨になると自動的にメンバーになることができます。
─その情報を基に各々の設定をするんですね。
そうです。スリーミリオン倶楽部の情報があれば、値動きのメインシナリオとサブシナリオのイメージがつくので、それに沿ってカスタマイズします。私自身は、テクニカルが苦手なので「ドル最強、円最弱」という予想シナリオが出たとしても、どの辺までドルの価格が上がるのか想定できません。その点、スリーミリオン倶楽部では、ファンダメンタルズとテクニカルの両方を考慮した予想を教えてもらえるので、トレンドに乗りやすく、予想が当たれば段階的に利確します。一方で、テクニカルで見た損切りラインも示されるので、損失も限定できます。今年は想定と逆に動いているので143円で損切りしました。
─損切りの価格は自分で決められるんですか?
メインシナリオとセットで提供されます。このラインを割ったらシナリオの見直しが必要というラインですね。その上でリスクリワードを考慮し、「運用するのか?」「運用するとして資金の割り当てをどうするのか?」を考えます。撤退ラインの近い戦略は損切りが必要になる可能性も高いですが、シナリオ通りに行けばリターンも大きくなります。相場予想が的中した2022年は利率が70%になりました。
─すごいですね。リターンは大きい方が良いですが、どれだけ含み損や損切りを許容できるかという点は、運用を設定する上でしっかり考慮しなければいけませんよね。
リスク許容度は人それぞれ違うので、冷静でいられる範囲で設定すると良いと思います。
相場観は占いではない。台風の進路に似ている
─ワイドレンジとナローレンジはどちらがお勧めですか?
相場観があるなら、それに頼った方が利益率は上がります。逆に相場予想ができないのであれば、ワイドレンジで仕掛けるべき。ただし、相場予想を専業にしているプロでさえ予想を的中させることは難しいので、「大多数の人は相場予想ができない」というのが私の考えです。プロでも百発百中というわけにはいきません。ワイドレンジの場合、利回りは良くて10%ほどになると思いますが、相場観がなくても勝つことができます。私自身は相場を予想できないので、相場観には頼っていません。
─ナローレンジで勝負するには何が大切ですか?
予想に自信を持つことです。損切りをどこで行うか明確にできなければ資産を失うことになります。相場予想は決して占いなどではなく、台風の進路予想に近いものがあると思っています。台風がどこを通過しそうかは、気圧配置が変われば予想も変わります。相場予想も一緒で、利上げの動向などファンダメンタルズで相場予想は変わります。状況が変われば、損切りをしたり、設定を変えなければなりません。私は、ファンダメンタルズとテクニカル両方を考慮した相場観を自分で出せないので、スリーミリオン倶楽部のサービスがなくなったら、多分ナローレンジでトラリピを運用するのをやめます。
─鈴さんにとっての相場観の定義を教えてください。
トレードに必要なのは根拠だと思っています。ワイドレンジの場合、為替はレンジを形成するという考えが前提にあるので、「高値圏なら売り、安値圏なら買いを入れれば、長期的に見ると勝てる」はずです。これは私にとって根拠となっています。ナローレンジでの相場観は、ファンダメンタルズとテクニカルで導き出されるものが根拠です。相場観は更新されていくので、柔軟に対応できるようにしています。
レンジの設定は資金効率を考慮
─今年の夏から秋にかけての価格変動について、鈴さんの予想を教えてください。
繰り返しになりますが、円キャリートレードの巻き戻しが起きると思っています。世界的に利上げによる国民の経済負担が大きくなっているので、何かのきっかけで一気に下がってもおかしくありません。既にクロス円では売りポジションを保有しているので、これ以上ポジションを増やすことはありませんが、円高になれば今持っている売りポジションを決済します。
─ワイドレンジで設定を変更する予定はありますか?
今の段階では、まだ見直すほどではないと思っています。私はユーロ円の上限を150円としているので、現在はレンジアウトしていますが、月足で見ると明確にレンジアウトした月はまだありません。7月はこのままいけば超える可能性が高いです(7月18日現在)。しかし、長い目で見たとき、秋ごろに価格が落ちたとしたら少しレンジからはみ出しているだけ。そういう瞬間的な動きまでレンジに含める必要はないと思っています。
─他の通貨ペアは想定レンジ内に収まっていますか?
カナダドル円と豪ドル円は、リーマン・ショック直前につけた価格を上限として見ているので想定内です。
─トラリピを始めたころと現在で変わったことがあれば教えてください。
トラリピを始めたころは、レンジから少しでもはみ出さないように、常に利益が出るように設定していました。しかし、10年のうちに1か月だけはみ出たところに仕掛けても資金効率が悪くなると考えるようになり、今はレンジを少し狭めることを検討しています。
─長期的な目が必要になるんですね。参考になりました。高値を更新しているユーロ円の戦略も教えてください。
ユーロ円の目線は上ですが、上昇幅は限られていると思うので様子見です。それに比べて下落幅は大きいと思います。今はそれぞれの国の通貨に魅力があってトレンドが形成されているわけではなく、金利差を背景とした円キャリートレードが行われているだけということを忘れてはいけません。
2022年から積み上がったロングポジションは、トレーダーがポジションを解消することで一気に下がります。これが貿易や国の政治手腕を買われて通貨に影響していれば簡単には円高になりませんが、そうではないので下落余地は大きいと思います。
─しかし、今はクロス円で売りを持っていると苦しい状況ですよね。
特にマイナススワップに対する不満があって、「しんどい」「積み重なったダメージがきつい」と感じます。私のように120円からユーロ円の売りのポジションを持っている人は含み損も多く、マイナススワップによる損失も増えていると思います。しかし、通貨ペアを分散すれば、それも軽減されるはずです。
私は7通貨ペアで回しているので、一つレンジアウトしたとしてもダメージを抑制できるようにしています。それでもワイドレンジの場合、相場予想をしない分、山あり谷ありになるのは避けられません。今は谷の部分、我慢のときです。
20年に1度の相場、今を生き抜く戦略を
─過去を振り返ってもここまでクロス円が高値になっているのは珍しいと思いますが、今と過去を比べた鈴さんの見解を教えてください。
ドル円を含めたクロス円は現在高値圏に入っていて珍しいと思います。世界各国が同時に金融引き締めを行い、日本だけが金融緩和をしている、20年に1回といっても過言ではない珍しい相場です。多くのクロス円でリーマン・ショック前以来の高値圏に突入しているので、リピート系自動売買をしている人は大きな含み損を抱えて不安になっていると思います。
しかし、先進国の金利が高い状態はそうそう続かないはず。米国が5%の政策金利を5年、10年と続けるとは考えられません。
─そう考えると、売り優勢で含み損が利益に変わる日も必ず来ると予想できますね。
売りは買いの何倍も値動きが早いともいいます。売りに入るタイミングは難しいので、そこを取り逃さないための準備期間が今だと考えると良いと思います。
─後の利益を大きく取れるように、今を生き抜くことが大事ですね。
今はクロス円が難しい相場なので、それ以外を取引するのも手です。ちなみに、私は7通貨ペア中、3通貨ペアがクロス円で、残りはクロス円以外の通貨ペアを運用しています。特に今はクロス円以外もうまく使うのが賢いやり方だと思います。
─リピート系自動売買でも株のようにリスクを分散するのが大事ですね。ありがとうございました!
インタビュー日◎2023年7月18日
鈴 相場観の正体
①ワイドレンジは相場を読まず、幅広いレンジに仕掛ける。その際は過去の金融ショック相場を含める
②ワイドレンジはファンダメンタルズを考えなくて済むのがメリット
③ナローレンジは相場の予想に沿って仕掛ける。大きなトレンドに乗るイメージ
④ナローレンジの相場予想は、マネースクエアのスリーミリオン倶楽部で配信される情報をベースにする
⑤ナローレンジは予想と相場が合致すれば大きなリターンを得られる
⑥リスク許容度は人それぞれなので冷静でいられる範囲を保つ
⑦相場観があるならそれに従う。なければワイドレンジで広く仕掛ける
⑧相場観は台風の進路予想。時間が経過し、情報が更新されれば、予想も逐一変化する
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
定価:980円(本体891円)