IT大手のGAFA某社でデータアナリストとして勤務しながらプロップトレーダーとしても活躍するGAFAさん。
緻密なデータ分析に基づいた確度の高いトレードを得意としています。
膨大なデータをトレードにどのように生かしているのか? 再現性と堅牢性を兼ね備えた手法作りの考え方を学びましょう。
聞き手◉鹿内武蔵/本文◉北原拓実
再現性と堅牢性をデータで示せるか?
─謎めいた人物のとあるさんですが、どのような人なのかを知りたいので、まずは自己紹介をお願いします。
今は多くの人が素性バレしてアカウントが減っていますが、少し前のTwitterにはGAFA勤務を語る怪しいアカウントがたくさんありました。そのような怪しい人と、プロトレーダーを語る怪しい人を掛け算し、見た目は怪しさ満載のアカウントなのに、発信している内容は超真面目というコンセプトで始めました。
最初はフォロワーも全くいなかったのですが、私と同じようにデータ分析を取り入れている人たちがリツイートしてくれたりしてフォローしてくれる人も増えてきています。
始めた当初はTwitterスペースでトレード分析などを発信していたのですが、現在はYouTubeでの動画配信をメインに行っており、Twitterでは補足情報を発信しています。
また自身のトレードについては、プロップトレーダーとして活動しています。
─プロップトレーダーとして活躍しているのは驚きです。なろうと思ってなれるものですか?
日本だとプロップファームは数社くらいで、ほとんどは正社員としての募集が多いのですが、海外はトレードがうまい人に業務委託をするプロップファームが多いんです。もちろん怪しい業者もあるんですが、長く運営している業者もいて、自分の実力を示せれば誰でもファームから資金を拠出してもらえるような仕組みです。
例えば、デモアカウントを与えられて、プロップファームが提示するルールに則ってトレードをして利益を獲得できると証明できれば、資金が供給されるみたいなイメージです。
実力を測る方法はプロップファームごとに違っていて、私が契約している2社のうちの1社だと、お金を与えられて、ポジションのドローダウンは口座全体の1.5%以下、最大許容ドローダウンが8%のリスク管理ルールでトレードし、8%の損を出したらチャレンジ失敗になります。そのような制約の中で10%以上の利益を出せば本契約となります。
私は英語ができるので、基本的に海外のファームに目を向けていろいろ調べていて、自分の実力を証明するためのチャレンジを開催しているファームのいくつかに応募しました。
英語ができないと厳しいですが、トレードの実力がある人は応募してみると良いと思いますね。日本の「Turn Trading」という会社はスタートポイントとしてはベストだと思います。社長であるニコラス・グールド氏はプロップトレーダーに関しての解説をブログで行っているので、活用すると良いのではないでしょうか。
─プロップファームに認められるほどトレードの実力が高いのですね。そこに到達するまでの経歴を教えてください。
大学院生のときに学費や生活の足しにしたいという気持ちでトレードを始めました。2013年くらいのころです。そのときは日経平均先物をやっていて、アベノミクスの初期の時期だったので、買えば上がる時期ということもあり、自分の学費をサポートできるくらいは勝っていたんです。
ただ、2015〜2016年あたりに相場の流れが変わり、トランプ相場に売りで刃向かってものすごく負けました。トータルだと4桁万円近く負けて、そこでトレードは中断しました。
それから外資系のコンサルティング会社に就職し、コンサルタントとしてさまざまな業界のクライアントを担当したのですが、その中に金融系もありました。
金融系のクライアントからいろいろな話を聞くと、今の取引はコンピュータが大部分を占めていて、大規模データの分析結果にあやかる厳格な検証とリスク管理が適用されているとのことでした。その後にデータアナリストとして仕事をするようになり、データを分析する仕事をしているのだったら、自分の持っている技能を生かしてトレードにリトライしてみようかなと思い、学生時代よりも資金が豊富だったこともあってトレードを再開しました。
私はプログラマーやエンジニアではないのですが、データ分析はコンセプトとしてどのようなことをやれば良いのか、どのようなところに注意すれば良いのかをある程度理解していたので、その知識をトレードの経験とつなげました。
日経平均先物をやっていた学生のころは、Twitterで先物界隈の人を見ていたのですが、データ分析を使って相場に立ち向かう人はほとんどいなかったですね。
現在も少なくて、数少ないデータ分析をしている人もほとんどがEAを作っています。EA製作者はMT4の標準的な仕様に制限された範囲の分析をすることが多い反面、MT4を使わない私は異なる角度からのデータ分析をしていることが多いように感じました。なので、EAを作っていない私なら面白い発信をできるのではないかと思い、TwitterやYouTubeを始めました。
例えば私が現在YouTubeで発信しているのは、相場を時系列として捉えない考え方です。同じ曜日・時間帯の値幅や方向を徹底的に標準化して別個のデータポイントとして扱い、偶然ではないような値動きのクセを炙り出そうとしています。
統計データを利用して確度の高い手法を作る
─絞り込んだ傾向を分析する方法はあまり流行っていない印象ですが、どこから発想を得たのでしょうか。
プロップファームについて調べ始めたときに、最初に見つけたのが前述の「Turn Trading」で、社長のニコラス・グールド氏がいろいろな情報をブログで発信しているんです。そのブログで時間帯や曜日の重要性を説いていました。簡単に説明すると、時間帯や曜日によって参加プレイヤーが違うので、それぞれの曜日や時間帯によって相場にくせが出るという内容です。
ある通貨ペアのある曜日はこのように動くと書いてあって、本当なのかと調べてみると、結果には大きなバラツキがありました。例えば、60%の可能性で特定方向に動くとブログに書いてあっても、実際は偶然の可能性もあると。マーケットの真の傾向は未知なので、60%という分析結果はある程度の誤差がある値として扱われる必要があります。例えば正しい値が45%なのに、分析結果として出てきた60%という値を信用してトレードするといつかは負けますよね?
時間帯や曜日によって、違うエッジが存在するという理論はコンセプトとしては納得できますが、本当にそう動くのかは彼が発信している情報では必ずしも示しているとはいえなかったので、自分の中で確信するためにはどうすれば良いかと考えたのがスタートですね。
要するに、曜日や時間帯から分析した60%の可能性が偶然だったのなら棄却する。より高い確信を持って何%なのかを追及するのが統計学なので、その見地を持ってくれば堅牢なエッジを作れると思ったのが始まりです。
─普通はテクニカル分析に売買サインを見つける方向に行くと思いますが、データ分析から始めるのは珍しいですね。
私がやっている分析はクオンツ分析みたいなイメージです。クオンツ分析はファンダメンタルズを分析する方法と、テクニカルに近いものを分析する方法があると思っていて、私は後者に近いです。いわゆるMACDみたいな指標は使わないのですが、使おうと思えばしっかりと分析したうえで、ある時間帯で確実に効果があるなら使うという考えを持っています。
例えば、特定の時間帯で前の1時間足の高値をブレイクして、終値がついたらその後は追従されるのかみたいな値動きを分析していて、テクニカル指標は使っていないです。
テクニカル指標も4本値からできているので、広義では同じといえば同じです。ただ、テクニカル分析にはデータの裏付けがないんです。価格を使っているという意味ではテクニカルに近いけど、精神性は異なります。基本的には、どのような分析方法でも最終的に統計学的な見地などのデータの裏付けがあるものは使う候補に入っています。
─データアナリストとしての積み重ねがあるので、ニコラス氏の相場理論が腹落ちした部分があるのでしょうね。
それはありますね。私のYouTubeの動画でも言っていますが、同じ性質のデータを取ってこれるかが全ての肝です。例えば、朝8時台の10pipsと夜11時台の10pipsはボラティリティが違うから、全く違うデータですよね。朝8時台の10pipsを比べるなら、別の日の同じ朝8時台と比較するのが重要なんです。
相場の動きはランダムと言われたりしますが、人間の行動形態はランダムではありません。大きな資金を動かしている銀行のトレーダーは、朝にポジションを取って、昼にランチに行って、夜は帰宅して寝るみたいに規則性がある生活をしているので、その人間の規則性によって相場にひずみが必ず出てくるんです。そのひずみを見つけるには、偏りのない同じ事象を記述しているデータをたくさん集める必要があります。その意味では、同じ曜日や時間帯で分析するのは腹落ちします。
─マーケットの参加者が変わったらエッジも変わるので、それについて値幅を取っていく考え方はシステムトレードの世界では一般的ですが、日本ではあまり流行っていないですよね。
プロトレーダーはそのような海外の考え方を引用すると思います。個人投資家で見ると、テクニカル指標やラインのように、いろいろなテクニックを使っている人がいます。ただ、それらのテクニックに再現性があって、堅牢であるかどうかはデータで示さなければ何とも言えないです。
同じ手法を使っても、勝っている人と負けている人がいますよね。ある手法を使って勝ち続けている人はたまたま勝っているだけかもしれないけど退場しないから、その人たちの発言が大きくなっていきます。負けている人は知らないうちにいなくなるし、自分の負けた経験を発信したがらないので、相場の世界は特に生存バイアスが強烈だと思います。
本当に再現性があるかはデータで示さないと分からない。でも、データで再現しようとする人はほとんどいないというのが現状なんです。
─負けている人はいつのまにか消えていきますよね。SNSなどで発信しているとプレッシャーが大きくなるので、スタンドプレーに走って損失が大きくなるのかなと思います。
それはあると思いますが、フォローしている人のリテラシーの低さも要因の一つではないでしょうか。100戦98勝の手法を持っている成功者でも、1回の負けトレードで叩かれるみたいな。トレードは一連のトレード結果で測らなければいけないのですが、個別のトレードで評価するフォロワーが出てくると、叩かれるのが嫌になって消える人も多いと思いますね。消えた人の中には今も勝ち続けている人もいると思います。
統計学やデータ分析でトレードを分析すると込み入った話になりますが、それを全て理解する必要はなくて、考え方が大切です。トレードは1回の勝ち負けで判断するのではなくて、何十回、何百回なりのトレード結果で考えなければならないみたいな役に立つ考え方が無数にあるので、それらを押さえておくだけでも変わると思います。
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ーTwitterで発信しているとのことですが、現在のフォロワー数はどのくらいですか
今のフォロワーは1500人くらいで、ここ3〜4か月は横ばいですね。しばらくYouTubeの投稿をしていなかったのも要因ですが、基本的にある程度のフォロワー数がいる人がリツイートしてくれた時だけ100人単位で上がるので、誰かがリツイートしてくれるのを待っています。
私の分析方法は分かりづらいんですよ。今出している動画を全て理解するには前段階として、私の分析方法を解説している動画のシリーズを見ないと理解できないので、難しすぎてあまり人気が出ないのかなと。
結局は求められているものしか流行らないんですよ。私はYouTuberではなくトレーダーなので、みんなが求めているものに迎合するつもりはないので、流行らないのは仕方ないと思っています。
ただ、配信を毎回確実に見てくれる人が70〜80人いるんです。YouTubeをやる前のTwitterスペースをやっているときから参加してくれている人たちで、コメントはしないのですが、2時間配信したら2時間ずっといるんです。仮に専業になってYouTubeに注力するとしても、その人たちを大事にしていきたいです。
ー兼業でトレードをされていますが、どのような生活をされているのでしょうか。
仕事しながらトレードしています。今の勤めている会社は副業を推奨しているので、問題ないですね。ただ、夜中までやっていたら次の日に影響するので、上手に辻褄を合わせながらやっています。
分析を自動化できているので、自分がチャートにラインなどを描くことはほとんどありません。「Twelve Data」からデータを落として、毎時57分くらい相場を見ます。例えば、3時にトレードするなら、2時57分くらいに「Twelve Data」から直近のデータをスプレッドシートに落として、分析は自動でやってくれるので、分析結果を見て注文を出します。EA化もできますが、分析が複雑で難しいので自分で注文を出しています。
以前の職場でもスマホは自由に使えていましたけど、お堅い企業だと無理ですね。どのような環境で仕事をしているかによってトレード方法も変わりますが、自分がやれる環境の中で最適な答えを見つけるだけですね。
ー兼業でプロップトレーダーとして活動しているなど、すごく夢のある話を聞けたと思います。最後に、この本を読む人にどのような考え方だと、大金を稼げるようになるかを教えてください。
基本的に夢を見てはいけません。例えば、1000万円を投資できるとして、複利で年15%〜20%増やすにも10年から20年はかかると思います。その年数を勝ち続けるのは、データに裏付けられたエッジを持ってマーケットを監視し続け、日々の変化に常に対応する勤勉さと我慢強さがないとまず無理ですね。
基本的には小さいリスクで雪だるま式に増やしていくのが良いのですが、我慢できないとギャンブルするしかないんです。
例えば、2016年くらいにビットコインを買っていれば何百万円のお金を作れたと今は考えられますが、当時はどう転ぶかは分からなかったですよね。ビットコインでお金を作れた人は、世の中がどう動くかを2、3歩先まで読めるような予測力を持っているか、話題になったからとりあえず買って忘れていたかのどちらかだと思います。
例えば、500万円を何かに投資できるとしたら、テック系やバイオ系の中から将来的にこれは大きく成長するのではないかという研究をしている企業を15個くらいピックアップして、500万円を均等に割り振って株を買ってあとは忘れましょう。ウォーレン・バフェットにも通じると思いますが、これから何が大きくなるのかをある程度予測する素養が必要になってきます。
これから資産を作りたい人は、専門的に分かるものを探すことが大切です。自身が働いている業界について日々インプットしている人間だったら、そうではない人よりもエッジはありますよね。
私はデータ分析の仕事をしているので、テック業界の知識はあまり詳しくはないですが、最新情報を集めようと思えばどこで集められるかが分かります。参照すれば最新情報を集められるような場所を作るのが大事ですね。
数十年かけて資産を構築する前提で考えると、今から30年間酸いも甘いも吸い尽くして、後から平均どれくらいのペースだったのかと振り返ると良くて25%ペースでしょうね。よく言われているように、100万円を3年間で1億円にするには、ものすごくラッキーな人か、退場覚悟でトレードするかのどちらかですね。すぐに儲けたいみたいな変な夢を見てギャンブル的な投資をするのではなく、確度の高い分析方法を使って、コツコツと利益を積み重ねていくことが稼ぐためには大切です。
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