価格を予想しないグリッドトレード
FX(外国為替証拠金取引)は通常、通貨ペアの価格変動を予想し、その上下を利用して利益を狙うトレードです。一方で、価格を予想しないトレード手法もいくつか存在します。ドルコスト平均法やリバランス戦略、グリッドトレードがその代表例です。今回は、グリッドトレードについてAMSER的な考えをご紹介します。
グリッドトレードとは、あらかじめ設定した一定間隔(グリッド)でポジションを並べ、「価格が上昇すれば売り、下降すれば買い」を繰り返す手法です。これにより、相場が上下するたびに利益を積み上げることを目指します。
グリッドトレードの最大の特徴は、インジケーターやチャート分析に依存しないことです。相場がどちらに動くかを予測する必要がなく、価格の変動に合わせて自動的に注文が執行されるため、トレーダーは複雑な予測を行わずに取引を進めることができます。
この手法は、特に相場が一定のレンジ内で動く際に効果的であり、価格の上下動が続く限り利益を狙うことが可能です。しかし、トレンドが発生して価格が一方向に進むと含み損が増えるため、資金管理が非常に重要になります。このため、上限または下限が決まっている通貨ペア、商品や、一方向に動くことが期待できる株やインデックスに対して有効です。ただし、スイスフランショックのような予期せぬ政策変更があると、想定以上の資金が必要になる可能性があるため、注意が必要です。
グリッドトレードに適した通貨ペアとは
グリッドトレードに最も適した通貨ペアとして、米ドル香港ドル(USDHKD)とオーストラリアドルニュージーランドドル(AUDNZD)をご紹介します。
USDHKDはペッグ制が採用されているため、取引範囲は7.75〜7.85の間に設定されています。下限を一時的に下回ることはありますが、上下幅が予測できるため、必要資金を計算することができます。ただし、取扱業者が少ない点がネックです。
AUDNZDのレートは過去10年間1.0~1.15の間を推移しているため、グリッドトレードに適しています。オーストラリアはニュージーランドの6.8倍のGDP、5倍の人口があるため、1.0を下回らない根拠となっています。一方、両国はこの10年間、似たような経済政策を行っているため、1.15には強い抵抗があります。
AMSER的グリッドトレード手法
グリッドトレードでは、必要証拠金を減らし、資金効率を上げることが重要になります。そのためには、ポジション数を減らし、ポジション保有時間を減らすことで含み損を軽減し、必要証拠金を抑えることが目標になります。
価格の分布
AUDNZDの価格分布を確認すると、正規分布に近い形になります。正規分布では、平均値を中心に±1標準偏差(σ)の範囲内に全体の約68.3%のデータが収まります。AUDNZDの場合、平均値は1.074、+σは1.097、-σは1.051です。この統計的特性を活かし、1.051から1.097の範囲でトレードを行うことで、必要証拠金を減らすことができます。
また、価格とポジションの保有期間には相関関係があります。ロングの場合、1.0に近いポジションはポジションの保有期間が短く、1.15に近いポジションは長くなります。この特性を利用し、ロングの場合は1.0~1.097(σ)、ショートの場合は1.15~1.051(-σ)の範囲で取引を行うことで、ポジションの平均保有期間を減らしつつ、効率的に利益を増やすことができます。
長期保有時のスワップポイント
スワップポイントを受け取るポジションは長期保有している間も利益を生み出しますが、支払うポジションは日々損失を計上しますので、マイナスになる側のポジションはグリッドの間隔を広げ、ポジション数を減らすのが有効です。
スワップポイントは切り捨てであることに注意が必要です。例えば、0.1の切り捨ては0ですが、−0.1の切り捨ては−1になります。つまり、受け取るスワップポイントが0.99円、支払うスワップポイントが−1.01円の場合、差は小さく見えますが、実際に受け取るスワップポイントは0円、支払うスワップポイントは−2円になります。このような切り捨ての仕組みは、重要なポイントとして認識しておく必要があります。
AMSER的スリッページ
グリッドトレードは常に利益確定で決済します。このため、人工的に疑似的なスリッページを発生させることで利益を増やす方法があります。具体的には、新規発注をリアルタイムで行う一方、利益確定を30分~4時間に一度に制御します。これにより、疑似的なポジティブスリッページを生成できます。
テイクプロフィットを設定するよりも、時間差をつけることで、利益確定の幅が大きくなります。この方法では、時間差の影響で決済のタイミングを逃すこともあります。しかし、全体を合算すると、グリッドトレードの場合、通常数十パーセントの利益増加が見込めます。
グリッドトレードは、相場の方向性を予測する必要がなく、自動化が容易な点で多くのトレーダーに支持されています。特定の通貨ペアや市場状況で効果を発揮し、統計的アプローチを取り入れることで、さらに洗練された戦略となります。
ただし、急激な相場変動や予期せぬ市場イベントにも備える必要があります。適切なリスク管理と資金管理を行い、市場の状況に応じて柔軟に戦略を調整することで、グリッドトレードは終わりのない利確を生み出す手法になります。
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
定価:980円(本体891円)