アルマダさんといえば、自動売買で有名なトレーダーと思っている方も多いかもしれません。
しかし本人に聞くと、資金の多くは裁量トレードに投じており、もちろん稼ぎが大きいのも裁量トレードとのことでした。
アルマダさんが裁量トレードで大事にしている相場観とは、FXでは基本的に見ることができない「板情報」です。市場参加者がどのような思惑で注文を入れ、ポジションを持ち、思惑と反する値動きに苦しんでいるか…。
こういった相場心理を想像することこそ、アルマダさんの裁量トレードを支える相場観につながっていきます。
聞き手◉鹿内武蔵/本文◉荻田里佳
波のゆくさきΣArmada氏プロフィール
専業投資家歴5年目、相場歴6年(バイナリーオプション5年、FX1年)。グローバルマクロ分析、統計学、データ分析、システムトレード設計を行う。裁量トレードと自動売買をどちらも行うが、資金配分が多いのは前者、人に教えやすく多くの人が結果を出しやすいのは後者と語る。
初めての自動売買は失敗の連続だった
─波のゆくさきΣArmada(以下:アルマダ)さんは、裁量トレードと自動売買のどちらもされていますよね。どのように二つを使い分けているのか教えてください。
自動売買は、シンプルかつ淡々と24時間同じトレードを繰り返すことができるのがメリットなので、その点を生かすために使っています。一方で、チャートを見ていると「言葉で言い表せない不穏な動きをしている」と感じることがあるんです。それは機械には分からないことなので、裁量トレードの領域だと思っています。
─アルマダさんは自動売買と裁量トレードを初心者に教える機会もあると思いますが、その際どんなアドバイスをされていますか?
どちらにも良さがあるので、まずはそれを知ってもらうようにしています。初心者によくありがちなのが、自動売買なのに裁量を入れて半自動でトレードをしてしまうパターンです。その相場に合った設定をしっかりしていれば利益は出るはずなので、自動売買と裁量トレードは分けて行った方が効率が良いと思っています。最初は気になって自動売買を「放っておく」ことができず、目先の勝ち負けを追いかけてしまうこともありますが、練習だと思って自動売買に任せることに慣れてもらいます。
─両者を使い分ける今のスタイルをどのように確立したのか教えてください。
まず、裁量トレードでは、ライントレードを参考にして売買をするようになってから、テクニカルだけで勝てるようになりました。一方で自動売買を始めたのは、バイナリーオプションをしていたときに「自動でエントリーできたら良いのに」とロマンを抱いたのがきっかけです。しかし、一昔前のバイナリーオプションの世界では、FX以上に「自動売買では勝てない」といわれていました。バイナリーオプションは取引ができるようになってから歴史が浅かったので、自動売買をする人も少なく、敬遠する人が多かったんです。
─そんな中で自動売買を使ってみて結果はどうなりましたか?
当時、裁量で勝ち始めていたころだったのにもかかわらず、自動売買を取り入れてからかなりの損失が出ました。自動売買について今のように教えてくれる人はおらず、独学だったのでたくさん失敗したんです。
─具体的にどんな失敗をしたのか教えてください。
振り返って僕が失敗だったと感じているのは、バックテストの期間を約3か月に設定したことです。短い期間のテストに過ぎないのに、成績が良いと判断して100万円をほぼ使いました。しかしその自動売買には、高値や安値を更新した際のラインや範囲が後から書き換えられるリペイントと、過去の相場に過剰最適化されたカーブ・フィッティングが組み込まれていました。
リペイントは、後から見ると勝っているように見えるため注意が必要なツールで、カーブ・フィッティングも、過去の相場とこれからの相場が一致するとは限らないので初心者が使いこなすのは大変難しいんです。
実際に購入した自動売買のツールを使い始めるとエントリー数がかなり多いことに違和感を覚えました。そして、ある朝に100万円入金したところ、昼前に70万円を切っていて、焦って自動売買の運用を止めたんです。当時はリペイントとカーブ・フィッティングが原因だと分からず、一人で調べて何か月も考えてやっと負けた理由を突き止めました。だからこそ、今僕が発信していることは、全部自分で転んで覚えたことばかりです。
為替で板情報を予想、SNSを駆使して勝つ!
─アルマダさんが裁量トレードでつかんだ勝てるようになるコツを教えてください。
チャートを見るときに、市場参加者が保有しているポジションを意識しています。今持っているポジションやこれから取るポジション、それぞれのポジションの重さなどがどのような比重で動いているのかを考えます。為替に関しては、株のように板情報が見えないので想定するしかありません。だからこそ、板情報を想定できなかった人たちがミスをします。僕はその人たちのミスを拾うようになって勝率が上がりました。
─エントリーをする際はテクニカルとファンダメンタルズはどちらを意識していますか?
どちらにも対応できるようにしています。テクニカルに依存していそうなチャートが形成された際、ニュースなどを見ていないテクニカル勢がファンダメンタルズの動きによって負けることがありますよね。そんなとき、テクニカルだけに依存したトレーダーは藁にもすがる思いでニュースをチェックし、ファンダメンタルズを初心者の知識でかじってポジションを持ちます。仮にファンダメンタルズは上目線、テクニカルトレーダーが下目線と判断していたとすると、値動きが重くなる。僕はここに値動きと思惑に乖離が発生していると判断して注目するようにしているんです。
─ファンダメンタルズとテクニカル、どちらかに偏ってしまうとその乖離部分に気づけないですよね。大事な相場観です。
ただ、経済指標でいうと米国雇用統計が発表されたタイミングでは先述したやり方は通用しない場合もあります。そもそも、雇用統計の結果は経済の先行きを見るための数字でしかないため、発表10分後の値動きに着目するのではなく、何か月か先を見据えるものです。だから短時間で買って売るような指標ではないはず……。しかし、実際は雇用統計発表前から相場参加者が結果を予想して動きます。また、あまりにも多くのトレーダーがさまざまな思いを持って参加するので先を読めません。
─雇用統計はボラティリティが大きくなるので、ここぞとばかりに初心者層も増えますよね。
そうですね。僕は次の行動が読めない初心者層のポジションを予想するのが一番苦手です。僕が得意とするのは、中堅者層が持っているポジションが焼かれている相場。中堅者層がチャートを見て「次の値動きは予想通りで堅いだろう」と読んだ相場がその逆を行くと、危機感を抱いて損切りし始め、止まらないトレンドが発生します。この心理を読めると勝率はかなり高くなると思います。
─何を使ってトレーダーたちの心理やポジションを予想しているんですか?
以前は、取引情報を見ることができるOANDAのインジケーターのオーダーブックで偏りを確認していましたが、今はSNSを見ています。迷信のようによくいわれる「ドル円は上がると思ったら下がる。下がると思ったら上がる」これはポジションの分布を考えれば筋が通る話です。
─昨年のドル円相場は151円まで円安になり、その後127円台まで落ちましたが、当時もSNSを見ていましたか?
もちろんです。昨年127円台になったとき、SNSでは「ここが押し目になって上を目指すのか」、または「さらに下に行くのか」と予想している人が多かったんです。しかし、ドル円は本来ボラティリティが大きい銘柄ではありません。一昨年までの相場だと10円単位で値幅が動くと予想する人は少なかったのですが、昨年は「120円まで行く」「150円を目指す」などの声がたくさんあり、僕は違和感を覚えました。週足で見ると、127円から135円ぐらいまで約4~5週間レンジを形成していたからです。ところが、SNSで呟くトレーダーは大きな値幅を予想していました。そうなると、先ほど述べた迷信のような状態になります。
─「ドル円が上がると思ったら下がる。下がると思ったら上がる」という状態ですね。
そうです。また、よく見たのは直近の高値または安値をブレイクしたため、ブレイクした方向にポジションを持ったものの、トレンドが発生しないケース。多くの人が動くと思っているからこそ、値動きが重くなってしまうと僕は考えています。そして、値動きがあまりにも狭くなると、つまらない相場と思いポジションを決済するトレーダーが増加します。すると、値動きが軽くなり、トレンドが発生しやすくなるんです。
誰もが経験したことがあると思いますが、動かないと思ったころに動き出すケースはこの原理だと思っています。つまり、上がると思ったら下がる、下がると思ったら上がる、みんなが動くと思ったら動かない、動かないと思ったら動く。これを知って惑わされず冷静な目を持てるようになると勝率は変わると思います。
追い上げ・追い下げ、ダマシを逆に利用する
─アルマダさんが自身のSNSで教えている「これだけ動いたら反転するだろうを崩す『追い上げ』『追い下げ』」について教えてください。
ドル円が100pips以上動いている日に「そろそろ反転するだろう」と考えたり、ダブルトップを発見して上昇トレンドがそろそろ終わると予想したりすることはありますよね。しかし、下がりきらずレンジを形成して値動きがもたつくことも少なくありません。そのレンジ相場には予想通りにいかず悩んでいる人たちがたくさんいるということです。レンジ相場が続くと、耐えられなくなった人たちがショートを手放し、値動きは上を目指します。
僕は値動きがグズついていると感じたら、図①のようにラインを突破する前にロングポジションを持ち、上昇し始めたら利食いします。逆に下がった場合は▲で損切りすれば良いのでリスクリワードは抑えられます。
─なるほど。「追い下げ」は「追い上げ」の逆パターンと考えれば良いんですね。次に「押し目崩し」について教えてください。
テクニカルトレーダーは押し目を探して、そこでポジションを持つ人が多いと思います。押し目崩しはそういう「ここで上がる」と考えた人たちの予想を裏切り、反転したときの波に乗ることです。上昇トレンド(または下降トレンド)が強ければ強いほど有効性が高くなります。
図②のようなチャートが形成されている相場では、ロング勢が直近の高値・安値で引いたラインを目安にしているので、上昇幅と同じぐらい下がることがあります。
─「押し目崩し」も値動きのグズつきに着目するんですか?
そうです。さらに、環境認識をして大きな時間足でラインを確認します。もし、長めの時間足で500pipsほど上がり、上値の重さを確認した場合、僕は「押し目が100pipsぐらいある」と考えます。つまり、長い目で見られる人は大体同じような考えをするので、図②の■までは下がるということ。そこの値幅を狙います。短い足で見ているとこれに気づけないので、●を押し目だと思って波に乗ろうとして崩されてしまいます。
ただし、これは上値が重い場合のみ有効で、上昇トレンドが継続することもあるので判断には注意が必要です。「戻り目崩し」も考え方は一緒で、上昇トレンドの逆だと考えてください。どちらにせよ、ラインに反応してレンジを見てから判断すれば良いので、焦ってエントリーする方法ではありません。
─続いて、アルマダさんがSNSに投稿していた「安易にあそこのライン越えたらブレイクだと思うものを崩し戻す『乗せ落とし』『掬い上げ』」について教えてください。
レンジが長く続いた場合、上下どちらかのラインをブレイクしたらその方向についていくトレーダーが多いと思います。しかし、ブレイクしたと見せかけてブレイクしきれず、再び値動きが重くなり価格を戻すという相場を経験したトレーダーは多いのではないでしょうか。
「掬い上げ」の手法では、図③の■のラインを突破し、その後さらにレンジを形成したのであれば★でエントリーします。「乗せ落とし」はこの逆です。ファンダメンタルズを考えて動く要因がない限り強い方向感は出にくいと考えた方が良いと思います。
─ボラティリティが大きかった昨年のドル円相場と今年は別物と考えた方が良さそうですね。
昨年はラインをブレイクしたら順張りすることを繰り返したらかなり稼げたので、今年も方向感がある相場だと思いたいトレーダーの気持ちは分かります。しかし、常に方向感があるとは限りませんし、本来為替はレンジを形成するもの。ラインをブレイクしても思った方向に行かなかった場合は逆張りする勇気も大切です。
─それでは最後に、裁量トレードを行う上で相場観を身につけるには初心者は何をするべきか教えてください。
初心者は、デモや最低ロットでも良いのでトレードをやってみて、騙されてみると良いと思います。騙されて初めて狩られる気持ちが分かるので、次は自分が狩る戦法を取れば良いのです。教科書通りのことを一通りしてみるのも大事で、やっていくうちにパターンを覚えられるはずです。
トレードで騙されている人たちも適当にエントリーしているわけではありません。誰もが「ここ美味しいな」と勝てる箇所を必死に探しています。それでもチャートに惑わされてしまう。騙す側に行きたいのであれば、一見すると教科書通りでも、その後予想に反する値動きをしていたら狩りに出る時間と認識することです。ラインに触れた後のレンジの動きをしっかり見て、冷静にトレードして勝者となってください。
インタビュー日◎2023年7月19日
Armada 相場観の正体
①チャート上に、言語化できない動きがある場合、裁量トレードの得意分野
②自動売買なのに、中途半端に手動決済してしまっては意味がない。放置する練習も必要
③市場参加者が既に持っているポジション、これから保有するポジションを意識しながらチャートを見る
④中堅層のポジションが焼かれているときがチャンス
⑤以前はOANDAのオーダーブックで練習。今はSNSから相場観を得ている
⑥多くの人が動くと思うと値動きは重くなる。人が少なくなると値動きが軽くなり、トレンドが発生する
⑦今回紹介している三つのパターンは、どれもグズつきを確認してからエントリー可能
⑧デモトレードや小ロットで教科書通りのトレードをして騙されてみることも大事
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
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