2024年9月現在、ドナルド・トランプ氏とカマラ・ハリス氏の大統領選挙戦は、全国的な世論調査でハリス氏が平均2~4ポイントほどリードしているものの、この差は非常に小さく、大接戦となっている。
ハリス氏が当選した場合、米SECゲンスラー委員長が財務長官に登用される可能性が報道されている。たびたび業界にとってネガティブな要素を提供し続けた天敵(ゲンスラー氏)が政権に参画するのは気が気ではない。
一方、トランプ氏が当選すれば、イーロン・ マスク氏やロバート・ケネディJr氏が政権入りする可能性が浮上しており、暗号資産業界にとってはまさにドリームチームの結成となる。暗号資産市場の本格的なバブルには、トランプ氏当選が必須条件といえる。仮に、ハリス氏当選となった場合には、暗号資産保有者はレンディングサービスやステーキングサービスを活用して、また長い冬を越す準備に入らなくてはならないだろう。
説明責任と利害関係の不一致
大統領選の裏では、日夜いざこざも起こっている。業界内で起こる問題はおおむねX(旧Twitter)を眺めていると把握できるが、先日賛否の声があがる出来事があった。若者向けのソーシャルメディアアプリYay!から、SocialFiを広める一環でリリースされたステーキングサービスが、パブリック開始後3分で1000ETHの枠を埋めた。
ステーキングとは、資産をブロックチェーンネットワークに「預け入れ」することで、ネットワークの運営や取引の承認に参加し、報酬を得る仕組みだ。9月執筆時点の1ETHの価格は2283ドルなので、1000ETHとなると、日本円にして3億円以上の資金が同サービスに流入したことになる。
一見、多くのユーザーが参加し大盛況だったように見えるが、実態は少し複雑だったようだ。Yay!は海外の事例を参考にアーリーアクセス制度を構築。時差を考慮して、パブリックの前日から、各国の協力者に対してダッシュボードへのアクセスを開放したようだ。時系列でいえば、8月27日の20時ごろと思われる。ETHの枠を埋めた多くは、LaserCatNFTというNFTのホルダーが多く、ここに関連するコミュニティで動きがあった可能性が見受けられ、中国語で発信を行う公式Xが7.7万人のフォロワーを抱えていることからも、中国のユーザーが多かったとされている。
この時点で、国内コミュニティへの周知及び、KOLからの大きな案内は見受けられていない。Yay!を運営する石濵氏が後日、自身のXで声明を出した通り、アーリーアクセスに関する情報の周知は行われていなかったようだ。
これらの動きにより、8月28日のパブリック開始時には190ETHほどの枠しか残っていなかった可能性がある。ここに賛否の声が集まったというわけだ。ステーキングを1日早く体験できるというメリットに、投機色の強い資金が流れ込んだと想定できるわけだが、この時点での動機になり得る主な要素は「ステーキングを1日早く体験できる」だけだ。
しかしながら、そのために手数料を払ったり、収益機会を失いながらETHをかき集めたりしたユーザーにとっては苦虫を噛む状況だったことは間違いない。そのほか、アーリーアクセスに関する情報の周知が行われていなかったことが薪をくべる形になってさまざまな意見が飛び交いながら広まった。
SNSで起こる炎上の功罪
ここからは個人の見解だが、もともとSNSの運用を生業としていた時期もあって、さまざまな既存企業の炎上に至った実例とその後の対応については目にする機会が多かった。
炎上には良い側面と悪い側面が混じり合い、最終的にその比率が偏る方へ収束すると思っている。難しいのは、途中で影響力のある人が参加してゲームチェンジャーになるというところで、SNS上での議論には不確定要素も多い。
今回のYay!の件でも、事業者が事前周知を怠ったこととその後の対応に改善の余地は大いにあるものの、結果として「ステーキングの枠を埋める」ということが早い段階で達成されれば、事業者として一定の話題性の獲得を期待できることは事実だと思う。
話題になればなんでもやって良いということを伝えたいのではないことはご理解いただきたいが、要するに、全てが悪ではなかったのではないかと、検討の余地を残す話題だったと考えている。
私自身も恥ずかしながら、トランザクション全てを追えていないこと、そして進捗中の話題であることから、最新状況とは認識に相違がある可能性もある。気になる方はご自身で再度情報を追ってみてほしい。さまざまな意見があるが、全てはブロックチェーンが知っているのも、この業界の良いところだろう。
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
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