ロンドン発の生きたFX情報を発信し続ける松崎美子さんに、「欧州にいるからこそ見える、理解できる、感じられる」をテーマに、その時期ごとの要点をレポートしていただきます。
松崎美子氏プロフィール
まつざきよしこ。スイス銀行東京支店へディーラーアシスタントとして入行。結婚のため渡英。バークレイズ銀行本店ディーリングルームに勤め、日本人で初めてのFXオプション・セールスとなる。1997年には米投資銀行メリルリンチ・ロンドン支店でFXオプション・セールスを務め、2000年に退職して数年後より、個人投資家へ。ブログ、セミナー、コラム、YouTubeを通じてロンドンや欧州の情報を日々発信している。
【著書】FXファンダメンタルズの強化書──情報を利益につなげる実践の読み方・使い方/松崎美子のロンドンFX (金融の聖地で30年暮らしてわかった日本人が知らない為替の真実)他
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13年周期の政権交代
7月4日、イギリスで総選挙が実施された。お隣のフランスで突然の解散総選挙実施となり、極右政権誕生リスクが台頭したこともあり、英国への関心は低かった。しかし投票終了後の出口調査結果を見て、私はポンドについて前向きな気分になったのである。
私はイギリスに住んで36年目になるが、過去の政権交代のタイミングは一部の例外を除き、だいたい13~14年周期となっている。そのため、今回の総選挙で政権交代が起きることは既成事実化しており、唯一の注目点は労働党の議席数とマジョリティー数に集中していた。
2大政党制健在の英国
今回の総選挙は特にフランスと同時進行だったこともあり、イギリスの伝統的2大政党制が未だに健在であることが証明され、誇らしく思った私である。そして政権の安定性は、海外からの投資を引き寄せる魅力として重視されるに違いないとも考えている。
思い起こせば、2016年にBrexit国民投票が実施され、EU離脱が確定(ポンド実効レートのチャート上①)。そして2022年には、当時の保守党トラス首相の財源なしの財政拡張予算案(チャート上の②)が英国債の暴落を引き起こし、ポンドは「投資不適格」「リスク・プレミアムが高すぎる落第通貨」という十字架を背負わされてきたのだから、そろそろ汚名返上しても良いタイミングであろう。
EU離脱をしたからこその魅力
日本でも報道されているが、お隣EUではパンデミック期間中に一時的に停止されていた「財政規律遵守」ルールが復活。その結果、フランスやイタリアを含む7か国がルール違反国と認定され、過剰赤字手続きと計画書の提出が義務付けられた。
きちんとした財政健全化へのアプローチが認められない限り、それらの国々は景気刺激目的の財政拡大が認められない可能性が高く、唯一の虎の子である「パンデミック復興基金」からの補助金を当てにするしかない。
イギリスは既にEUを離脱しているので、財政規律遵守ルールは適用外。もちろん2022年のトラス・ショックで煮え湯を飲まされているので、労働党新政権も財源なしの財政支出はやらないし、できないだろう。ひとまず9月に発表される新予算案で、どのような景気刺激策が含まれるのか楽しみである。
上のチャートは経済協力開発機構(OECD)が発表したG7各国の2024年実質GDP予想である。ご覧のように英国経済は全くパッとしない最下位から2番目。しかし見方を変えれば、悪くて当然なので、少しでも改善をすれば、そう悪くない未来が待っているのかもしれない。
ユーロ/ポンドに注目
労働党勝利は既に織り込み済み材料であり、ポンドに影響はなかったが、近い将来起こるであろう英中銀の利下げ予想を受け、ポンド売りを推奨する銀行が多い。
私自身は英中銀の利下げでポンドが崩れるとは考えておらず、9月に予定されている新政権の予算案内容を確認するまで前のめりは危険であることを承知の上で、ポンド買い方向で見ている。特に対ユーロでのポンド買いはフランスの政情次第ではあるが、面白い展開が期待できるのではないだろうか?
もう一段のユーロ安/ポンド高が期待できると予想
上のチャートは、イギリスとドイツそれぞれの10年物国債利回りの差(イールド・スプレッド)。赤い線が引いてあるところは、150bpsの格差である。下は、ユーロ/ポンドの日足チャート。赤い線は、だいたい0.8480/8500レベルである。水色の丸をつけたところが、2022年9月のトラス・ショック。
ご覧のように上のチャートではまだ赤い線の上での動きとなっているが、下のユーロ/ポンドのチャートでは、一足お先に下抜けしている。今後、上のチャートも赤い線を下に抜けると(イギリスの利回りが低下する)、もう一段のユーロ安/ポンド高が期待できると予想している。0.8650を上に抜けない限り、大きなターゲットとして0.8000を予想している。
FX雑誌「外国為替」vol.14
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