
外国為替の兄弟誌。Web3.0を中核として、幅広くデジタル社会の情報を伝える。好評発売中の2025年1月号では、最先端技術がもたらす未来をテーマに、AIの大特集『Unlocking the Future』をお届け! AI時代の到来を背景に、生成AIからAGI・ASIへの進化、さらにAIとWeb3.0の融合が描く新たな社会ビジョンを深掘りする。
米大統領選がもたらした暗号資産市場への影響
11月の米大統領選でドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領をリードする展開となり、ビットコインは買いが加速。トランプ氏の当確が出た翌日には、7万6890ドル(約1180万円)、11月13日執筆時点では一時9万ドル(約1360万円)と史上最高値を更新する力強い動きを見せている。米国を「ビットコイン超大国」にする意向を表明し、暗号資産に友好的な姿勢を示したトランプ氏の当選が相場に大きな影響を与えた歴史的な日であった。現在の米国における不明確な規制を整備することへの期待感で、ビットコインは最高値を更新し続ける状況が生まれている。
投資家の期待感を煽った要点は大きく分けて3つ。1つ目はSEC(米証券取引委員会)のゲーリー・ゲンスラー委員長を、大統領就任と同時に解任する意向を示していること。2つ目は、今では暗号資産といえば、といった存在のイーロン・マスク氏に対して「政府効率化委員会」を率いるよう要請していること。3つ目はシンシア・ラミス上院議員が今年7月に提出した「2024年ビットコイン法案」の、トランプ政権での実現可能性だ。この法案では米国が戦略的準備金として100万BTCを購入するとしている。執筆時点では約13兆円相当の価値である。いずれも実現されれば暗号資産市場にとってポジティブな影響があることは間違いないだろう。
今後ビットコインの価格は年内に10万ドルを目指し、年明けから12ー13万ドルを目指していく展開だと認識されており、私自身もこの価格帯で推移しそうだという所感を持っている。一方で既存金融から見れば、現時点での暗号資産は、投資ポートフォリオのリスクを分散させる資産であり、全体のポートフォリオの10%以下が推奨されているため、これを鑑みて現状を冷静に見極めてもらいたい。
冬の時代に実績を積んだプロジェクトに新たな動き
暗号資産市場の大相場と裏腹に、国内の暗号資産事業者の動きで目立ったものは少ない。その中でもNFTを活用したビジネスで1つのモデルケースを作った「NOT A HOTEL」で新たな動きがあった。NOT A HOTELは、2022年にNFTとRWA(現実世界資産)を融合させた新しい仕組みを開発し、国内で7.6億円の売上を達成。販売後数分で即完売し、NFTを活用したプロジェクトの中でも特出した成果をあげている。
その子会社のNOT A HOTEL DAOが10月31日から、国内暗号資産(仮想通貨)取引所のGMOコインで「NOT A HOTEL COIN(NAC)」のIEO申し込みを開始。NOT A HOTELでは、物件をNFTを介して一棟丸ごとまたはシェア購入できるほか、宿泊施設の客室を特定の日付で利用できる権利をNFTとして販売し、購入者が利用権をデジタル上で持つことができる。もちろん、他者に貸し出したり、売却することも可能だ。
特定の日付で利用できる権利が付与されたNFTは、リリース段階ではランダムに宿泊日が刻印されるが、セカンダリーでは日付が刻印されたNFTを購入できるため、パートナーとの記念日など特別な日が刻まれたNFTをセカンダリーマーケットで購入し、宿泊先が決まってから旅のプランを考えるなど、新しい体験に付加価値が見出されている。
個人的な感覚では現時点、国内でNFTを活用した〝唯一〟の成功事例だと思っている。同プロジェクトが多くのユーザーに受け入れられた要因は主に2つある。1つ目は二次流通が容易であることだ。会員制のアカウントを作成し、宿泊券や予約情報をデジタルで管理することで、NFTを活用せずに既存の仕組みで宿泊権利を共有したり、譲渡することが可能だ。一方で、セカンダリーマーケットで自分が購入したときよりも高い金額で取引される要素も残っており、購入動機の1つになり得る。2つ目は、新しいサービスや特典をブロックチェーンの特性でもあるスマートコントラクトと結びつけ、NFTを起点に柔軟性の高いサービスを総合的に提供できる先進的なイメージによるブランディング効果だ。
現在の日本国内のIEOでは、法規制で海外投資家の参加が制限されているため、投資家層が限定的になって市場の規模が限られる。このような状況下ではトークンの需要が上がりにくく、価格上昇も減速しがちだ。価格の上昇イコール良いプロジェクトであるとも言い難いが、プロジェクトの盛り上がりは、ユーザーにとって悪いものでもないことは事実だろう。
IEOが受け入れられない要因の1つには、プロジェクトの成熟度が不足していることがあるが、その点NOT A HOTEL DAOについては、実績とプロジェクトの成熟度が高いと考えている。
今回のIEOを通して流通するNACという暗号資産は、レンディングすることで宿泊権を獲得できるほか、宿泊時の付帯費用、物件管理費の支払い、限定特典も用意される。NFTを活用したプロジェクトの成功事例を作ったチームが、DAO(Decentralized Autonomous Organization)を活用して新たな成功事例を創出することは、業界にとって非常に意義のあることであり、応援の気持ちを込めて注視したい。
