ロンドン発の生きたFX情報を発信し続ける松崎美子さんに、「欧州にいるからこそ見える、理解できる、感じられる」をテーマに、その時期ごとの要点をレポートしていただきます。
松崎美子氏プロフィール
まつざきよしこ。スイス銀行東京支店へディーラーアシスタントとして入行。結婚のため渡英。バークレイズ銀行本店ディーリングルームに勤め、日本人で初めてのFXオプション・セールスとなる。1997年には米投資銀行メリルリンチ・ロンドン支店でFXオプション・セールスを務め、2000年に退職して数年後より、個人投資家へ。ブログ、セミナー、コラム、YouTubeを通じてロンドンや欧州の情報を日々発信している。
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周縁国の猛反発を買うドイツ
今までずっと経済面でも政治面でもEUの牽引役だったドイツ。しかしこの1~2年はEUのお荷物的存在に成り下がったといっても過言ではない。そして7月に続き9月にも、不法移民への対応という名目で、全ての陸路の国境コントロール強化を発表し、周縁国の猛反発を買っている。来年秋には国政選挙を控えており、今後のドイツ政府の動きからは目が離せない。
極右政党の躍進となった州議会選挙
ドイツに限ったことではないが、最近の欧州では移民排他を主張する極右やポピュリズム政党が支持を高めている。今年6月に実施された欧州議会選挙や、7月のフランス総選挙でも、その傾向が顕著であった。
9月1日に旧東独2州で実施された州議会選挙では、最も恐れていることが実現した。それは、右翼過激派組織と分類され、ナチスのレトリックを意図的に用いたことで有罪判決を受けた人物が州党首であるAfD党が、30%以上の得票率を得て第1党となったのだ。
同国の主流派政党の議員たちは、あらゆる手段を使いAfD党の台頭を阻止し、ナチス政党と呼ぶ議員も出てくる始末だが、多くの有権者は耳を貸さなくなっている。このことは、中道政党が対処できていない核心的な問題、つまり移民問題や国の制度に対する有権者の不信感の高まりを指し示しているといえよう。
ドイツ左翼のヒロイン
9月1日の州議会選挙のもう一人の勝者は、旧東ドイツ生まれのザーラ・ヴァーゲンクネヒトさん。彼女はSPD党から左翼党に移り、2023年10月23日に新党『ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)』を立ち上げた。
この政党は親ロシアで、同国への経済制裁に反対、ウクライナへの武器供与反対、防衛強化反対、社会の富の格差を生み出す資本主義を激しく批判し、格差解消のために税制改革及び社会福祉の強化を求めている。
同党にとっては今回の州議会選挙が初めての選挙となったが、2州でそれぞれ15%程度の得票率を得て、第3党に滑り込む勢いを見せた。
敗北を喫した連立与党3党
州議会選挙では、ドイツの連立与党3党(SPD党、緑の党、FDP党)は、合計得票率が10~12%に留まり、大きな敗北を喫した。
6月の欧州議会選挙でも、ショルツ首相所属のSPD党は過去100年以上で最悪の結果を出したばかりで、州議会選挙でもそれは挽回できなかった。ドイツは2025年秋に国政選挙を控えているが、一部の政治専門家の間では現在の連立政権はそれまで持たないので、どこかのタイミングで解散総選挙実施の可能性も視野に入れるべきと主張している。
国境コントロールで鎖国状態のドイツ
州議会選挙での大敗が直接のきっかけとなったのかは不明であるが、ショルツ連立政権は移民政策強化を発表した。AfD党の台頭がいかに国の政治体制を揺るがしたかを示しているともいえよう。
そこでドイツ政府は9月9日に、非正規移民への対応と過激派の脅威から国を守るため、陸路国境での一時的な取り締まり強化を命じた。フェーザー内相は、今年7月に既にスタートした臨時国境管理の地域を拡大し、全ての陸路国境を対象とすると語り、少なくとも6か月間は継続措置となるそうだ。
地図上の青線は、今年7月に発表されたポーランド、チェコ共和国、オーストリア、スイスとの臨時国境コントロール地域。赤線は、9月9日に発表されたフランス、ルクセンブルク、オランダ、ベルギー、デンマークを加えた国境コントロール地域の拡大図。
当然だが、周縁国からは非難轟々だ。ポーランドはドイツと国境を有する国々が集まり、協議すると発言。9月末に総選挙を控えるオーストリアは、ドイツが入国を拒否した移民の受け入れは絶対にやらないことを明確にしている。
これはあくまでも私見であるが、ドイツが国境コントロールを継続する限り、他のヨーロッパ各国も同様の措置を取らざるを得なくなるだろう。どの国も不法移民など引き受けたくないからだ。
自由なヨーロッパの象徴である『シェンゲン協定』に対する脅威となったドイツの決定だが、これをきっかけにヨーロッパの崩壊を危惧する人も出てきている。EU統一の終わりの始まりとならないことを祈る。
FX雑誌「外国為替」vol.14
発売:2024年12月23日(月)
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