ロンドン発の生きたFX情報を発信し続ける松崎美子さんに、「欧州にいるからこそ見える、理解できる、感じられる」をテーマに、その時期ごとの要点をレポートしていただきます。
松崎美子氏プロフィール
まつざきよしこ。スイス銀行東京支店へディーラーアシスタントとして入行。結婚のため渡英。バークレイズ銀行本店ディーリングルームに勤め、日本人で初めてのFXオプション・セールスとなる。1997年には米投資銀行メリルリンチ・ロンドン支店でFXオプション・セールスを務め、2000年に退職して数年後より、個人投資家へ。ブログ、セミナー、コラム、YouTubeを通じてロンドンや欧州の情報を日々発信している。
【著書】FXファンダメンタルズの強化書──情報を利益につなげる実践の読み方・使い方/松崎美子のロンドンFX (金融の聖地で30年暮らしてわかった日本人が知らない為替の真実)他
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4月中旬、20年ぶりにイタリア・ミラノを訪れた。いい思い出でいっぱいのミラノなので、心から楽しみにしていた。空港からリムジンバスを利用しミラノ中央駅に到着。そこからホテルに移動するためタクシーを捜したときに、20年前と大きく違う光景を目にした。それはアフリカからの移民・難民の多さである。
駅にあふれかえるアフリカ難民達
ヨーロッパを旅行した人ならご存じだろうが、欧州各国で公共交通機関を利用するときは『90分乗り放題切符』を購入するのが一般的だ。これは90分の間であれば、地下鉄もバスもトラムも乗り放題である。
どの地下鉄駅でも、入り口の改札でやけに難民と思われる人達から声をかけられる。彼らは「この切符はまだ1時間余っているから、2ユーロで買わないか?」と話しかけてくるのだ。調べてみると、切符は2.20ユーロ(約350円)なので、2ユーロならお得という意味らしい。私はもちろん買わなかった。
そして今度は帰りに改札口を出たところで、この人達は不要になった切符を駅員のように乗客から回収して、入り口で安く売るのである。
昨年はハンガリーとチェコに行ったが、地下鉄駅でこういう人達が改札口や入り口にたむろしている光景は見なかった。
欧州の移民難民
思い起こせば5年前にイタリアのサルデニア島で、2番目に大きな街に行ったときも、自分の目を疑う光景に出くわした。それは、街の至るところに難民と思われる人達が大勢たむろしていたからである。
こういう光景は、10年くらい前まではほとんど見なかったので、いったいここはイタリアか? 間違えてアフリカに来てしまったのか? と思ったほどである。
6月 欧州議会選挙
このようにイギリスやヨーロッパの有権者の間では、移民・難民に対する問題意識が非常に高い。移民排他の動きが高まるにつれ、各国の極右ポピュリズム政党は「移民反対」を掲げて票を集める。2023年のオランダ総選挙では「移民と難民」が争点となり、イスラム排他・反移民を支持する極右ポピュリズム自由党が第一党となり、首相が誕生した。イタリアも同様で、今までは絶対にあり得ないと言われていたファシズム系政党から首相が誕生している。
今年6月6~9日に実施される欧州議会選挙では、有権者の関心が最も高いのが「移民・難民問題」であり、ポピュリズム政党(会派)の議席が増える予想である。ただし、どれだけ議席を増やしても、やはり伝統的二大会派である中道左派と中道右派の会派が第一と第二会派となることはほぼ間違いなく、ポピュリズム会派が最大会派になることは考えられない。
欧州議会選挙でポピュリズム系の会派が第一会派になっては困るのは、EU執行機関である欧州委員会の要職人事がそれに左右されるからである。
マーケットへの影響
欧州議会選挙や5人の大統領の後任人事が、短期的に為替マーケットへ影響を与えたことはない。しかし、長い目で見れば、これら要職に就く人物の政治思考や対応により、ここからEUが歩む方向性が決まる。
特に11月の米大統領選でトランプ候補が当選すれば、過激なEUイジメが始まるだろう。そうなれば、為替や株式市場にも影響が出るはずなので、後任人事は無視できない要因であると、私は考えている。
4つの難民ルート
どうしてイタリアにアフリカ系難民が多いのか? それは、難民ルートによるところが大きい。ヨーロッパへの難民ルートは大きく分けて4つ。ご覧のようにイタリアは中央地中海ルートを経て不法入国してくる北・東アフリカの人達を一手に引き受けている状態なのである。
メルケル元首相の犯した罪
どうして難民達はヨーロッパを目指すのか? それは2015年秋に当時のメルケル独首相が「ドイツは難民を温かく迎え入れる用意がある。他の国々も同様の措置を講じてほしい」というメッセージを流したことが発端だった。その結果、発言の翌日から何万という難民がドイツを目指し入国を試みたのである。
しかし、例えば西バルカン・ルートを移動中の難民達が、ドイツにたどり着く前にハンガリーやマケドニア、セルビアやオーストリアに居ついてしまい、大問題になった。最終的に、これらの国々は国境閉鎖や警備強化に踏み切り、余計な財政支出を余儀なくされたのである。
EU要職の椅子取りゲーム
「EU、5人の大統領」と呼ばれる要職は、上表の通り。ほとんどが欧州議会議員の5年任期にあわせ、選挙実施年に任期切れとなる場合が多い。再選の有無は、ケースバイケース。要職に就任する人物については、各加盟国の地理的・人口的多様性を尊重することが求められるだけでなく、イデオロギーや性別などの要素も加味される。
「5人の大統領」の中でも特に権力が強い欧州委員会委員長職は、欧州議会選挙での第一会派から選出されるため、どの会派も必死で第一会派を目指すのである。
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
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