抜群の人気を誇る裁量トレーダー、ゆるふわコーチTobiさんと、EA開発・運用の第一人者であるTrader Kaibeさんによる異色の対談が実現!
役に立つ情報満載であることはもちろん、「逆サイド」への率直な意見も述べられている、非常に貴重なクロストークとなりました。
本文◉武田貴士
【裁量トレーダー】ゆるふわコーチTobi(ゆるふわこーちとび)氏プロフィール
ゆるふわこーちとび。投資は低レバレッジFXを主戦力とし、株や積立も行う。「全ての取引履歴を公開する年利20%トレーダーの量産」「NDDのドル建市場からチームで外貨を荒稼ぎする」の二つを直近の目標として掲げる。利確・損切り・エントリーが決まっていない方へ無料ルールを提供。
【EA開発・運用者】Trader Kaibe氏プロフィール
EAの優秀さを証明したいとFX大会ロビンスカップ(2017年)に出場し、EAのみで準優勝。その後、EA界を牽引するトッププレイヤーとして精力的に情報発信を行う。某大手企業から独立し、現在はフィンテック業界で起業。【書籍】IQ162のMENSA会員が教える FX自動売買の基礎と実践(パンローリング)
人間心理が平均化されたものがFX
Trader Kaibe(以下K) まずはTobiさんの為替相場に対する考え方について教えてください。
ゆるふわコーチTobi(以下T) 相場の中でもとりわけFXでは、自然現象や自然の波の特性を捉えるのが効果的です。人間も生物の一種であり、自然の一部なので、人間の経済活動や思考が何億人分も入っている為替市場では、その心理が平均化されると思っています。
K 私もFXのチャートはトレーダーの母数が多いので、人工的なものというよりは自然現象に近くなると思っています。
T そのような考えを前提とした上で、トレードでは勝率やリスクリワードを理解する必要があります。これらは多少変化することはあっても、普遍的な設定でないとルールとはいえません。トレードする際には必ず損切り、利益確定を決めるんですが、僕はこの波の始点がココ、この波の終わりはココまで、というように波の性質から逆算して決めるようにしています。
インジケーターを中心にトレードすると、その手法のブームが来ているときは良いのですが、長くは続きません。例えば、100SMAがよく機能する相場があったとします。1時間足の100SMAがずっと機能していると、「100SMAが聖杯だ」という人も現れますが、その後に日足単位の値動きに切り替わって1時間足の100SMAに全然タッチしなくなってパフォーマンスが落ちてしまう、ということもよくあります。
このようにボラティリティの変化でトレード手法が機能しなくなることが多々あるのですが、僕のやり方はとてもシンプルで、さまざまな相場に当てはまるよう工夫しています。そういった普遍的なテクニカルを使用しています。
裁量トレーダーから見たEAのイメージ
K Tobiさんは裁量トレーダーですが、今まで自動売買やEAの運用をされたことはあるんですか?
T メインではありませんが、やったことは何度もあります。
K その際の成績はどうでしたか?
T まず成功したときの成績から話すと、平均で月利2%前後のEAを使っていました。年利24%なので十分すごいんですが、月利が8%と好調なときもあれば、ドローダウンでマイナス3%になるときもありました。トータルにすると年利が24%くらいになったので、確かに資金は増えましたが、月単位で見ると安定しないEAでした。
その一方で、裁量トレードをそのままEAにしたときはうまくいかなかったです。普遍的なルールをEAにするのは意外と難しくて、エンジニアさんにうまく伝えようとしても伝えられなかったです。よりシンプルにすることが重要なので、先ほどの成功談のEAはローソク足3本だけで判定するロジックにしました。そこにリスクリワードや資金管理のロジックを少し加えています。勝率は50%後半くらいです。
EAはそうしたシンプルなものでないと、うまくいかないというイメージです。アノマリーを利用したシンプルなEAでも、リスクリワードが1:1なら勝率は60%が限界だと思っていて、かつ安定もしないと感じています。でもEAは放置しても資金が増える良いものだと思いますし、プラスのイメージで捉えています。
EAトレーダーから見た裁量トレード
T 逆にKaibeさんに聞きたいのですが、現在の運用内容はどんな感じですか?
K 現在のメイン運用はドル円、ユーロドル、ゴールドで、全てEAです。ドル円とユーロドルでのトレード戦略はアノマリーやスキャルピング、デイトレが主です。ゴールドのトレード戦略はスキャルピングとナンピンで、サブ口座で運用しています。ゴールドでのトレード戦略は見た目の成績は良いですが、やられたら終わりのタイプなので、初心者にはお勧めできません。
T スキャルピングとデイトレがメインなんですね。裁量トレードもやられているんですか?
K 裁量トレードは2006年から12年間やっていましたが、結局、自分には無理だと思って、パフォーマンスが良いEAに切り替えたんです。2018年以降はEAばかりで、裁量トレードは一切やっていません。
もちろん人によって向き不向きはあると思っています。裁量トレードの方が高いパフォーマンスを出せる人もいます。EAではできないことが裁量では可能なので、それを実現しながらEAと同じようなトレードができる人は、裁量の方が高いパフォーマンスを出せると思います。
例えば、ファンダメンタルズ分析を使いこなせる人なら、直近ではドル円が大きく落ちているので、6月末からの2週間はひたすらショートで稼げました。EAではそういうことはできないので、ファンダメンタルズで勝てるトレーダーに、EAは勝てないわけです。
ファンダメンタルズをうまく使えて自分のメンタルも適切に管理できる人は、EAよりも裁量の方が良いのかもしれないです。EAが裁量を上回るのは、感情を排除したトレード、失敗しないトレードという面ですね。裁量でそれができる人にEAは必要ないのかもしれません。
T 僕は個人的にはEAが必要だと思っていて、良いものが欲しいです。EAと裁量それぞれでポートフォリオを組んで分散投資をしたいと考えています。月ごとの利回りが分かるようなデータが出ているものを利用してみたいです。
裁量は『スマブラ』、EAは『信長の野望』
T 裁量は、僕の中では『スマブラ』や『モンハン』のようなものだと考えています。日々刻々と変化するリスクリワードの中で、ココに切り込んでいこうという格ゲーのような認識で裁量に取り組んでいるので楽しいです。楽しいから続けられるし、楽しいからメンタルがぶれないと自分では思っています。
EAと裁量はどちらも優れていますが、EAはまだ全然整備されていないし、裁量は怪しいコピートレードばかりなので適切な選び方を伝えたいです。どちらかにこだわるのではなく、両方含めてポートフォリオを組めば良いと思います。
K 裁量に必要なエネルギーや時間ってEAとは全然違うと思うんですが、それはあまり話題にならないですよね。例えば、忙しいサラリーマンにとってEAは強い味方になるかもしれません。
T 「裁量=チャートに張り付く」というイメージが強いですが、僕はチャート分析を短時間でできるし、エントリーする時間も決めているので、1日に数回チャートを見れば十分です。分析技術さえ上達すれば、裁量トレードも1日5分程度で済むので、サラリーマンでも続けていけると思います。
K でも、そこにいくまでは大変ですよね。
T そうですね。技術の習得まではちゃんと計画を練る必要があるし、時間はかかります。バットを初めて持った人がプロ野球選手のボールを打てないのと同じで、いきなりトレードしても失敗することの方が多いです。一流の技術を習得するまでは、結構大変かもしれません。
ただ自動売買も、EAやVPS選びのハードルは高いので、ある程度勉強する時間が必要だと思います。結局のところ、どちらが自分の性格に合っているかが重要です。僕はテレビゲームが好きだから裁量が合いました。
EAが好きな方って多角的に物事を見たり、戦略ゲームが得意なイメージです。『信長の野望』のようなシミュレーションゲームが好きな人はEAが向いてると思います(笑)。ゲームを突き詰めたいのか、お金だけ欲しいのか、で変わってくる部分ですね。
本当に勝っているトレーダーは少ない
T 基本的に、優秀な裁量トレーダーは心技体が整っていますよね。精神的に強く、謙虚で、かつ社会的にある程度成功していて収益が安定している方が多いです。
これは僕が確信していることなのですが、システムトレーダーにしても、裁量トレーダーにしても、コピートレーダーにしても、結論からいうと勝っている人はとても少ない印象です。ですが、実際に大きく勝ち続けている人がいるのも事実です。
そういう本物のトレーダーの利回りに対して、今のFXユーザーは理解を示せないんです。FXって10万円が短期間で100万円、1000万円になるというような一攫千金のイメージを持たれがちなので、着実に利益を伸ばす本物のトレーダーはあまり注目されないのかもしれません。
なので、実際のトレードの収支を出しても意外と盛り上がらないんですよ(笑)。
K myfxbookなんて、本当にお金が増えていることを証明できるのに、なぜ広まらないんでしょう。初見では見方が難しいからですかね。
T それはあると思います。初心者の方は短期の結果ばかり見てしまう傾向がありますが、優秀なトレーダーは長期のことがよく見えています。投資とは何かという基本的なことを、もっとFXユーザーに知ってもらいたいですし、広めたいです。
K 私はとにかくEAトレードする人を増やしたいですね。増やしていけば大手も無視できなくなって、「ウチもやらなきゃ」という流れができると考えています。取引する人が増えて流動性が大きくなれば、EAトレーダーでもある自分にとってもメリットが大きいです。
それと、EAでも初心者が失敗することはよくあるのですが、裁量トレードは中上級者でも失敗して退場する人が多く、もったいないと感じています。EAなら救えたのに、みたいな人も少なくありません。EAを通じてFX取引する人も増えて、FXは良いものだというイメージも広まれば嬉しいですね。
T EAは大きな失敗が少ないですよね。裁量トレードでは、10億円稼いだのに1年でなくなりました、1億円稼いだのに1週間で30万円になりました、みたいな話も聞きます。そういう方々の裁量トレードは、トレンドやブームに乗った一過性のトレードであることが多いです。
人間にはメンタルもあるので、レバレッジを上げすぎるとメンタルが限界を迎えて崩壊します。自分のお金の器以上の金額は稼げないと肝に銘じておくべきです。家族がいて守るものがある方などは、退場しないためにEAで土台を作ることが先決かもしれないですね。
トレードとは究極のゲームだ
T 話は変わりますが、海外には優れたコピートレードのサービスがあります。ただ、日本は何かと法整備が厳しくて使えません。それは日本人を守るという目的もありますが、その環境では本物のトレーダーは生まれないと思います。ガラス張りで競争できるような環境がなければ、海外勢には勝てないと感じています。
トレードは、毎日プレイできて外貨を獲得できる究極のゲームです。日本人はゲームが得意なので、トレードに向いているはずなんですけどね。
K 確かにそうですね。ゲーム感覚で取り組めば、上達が早まるかもしれません。最後に今後の目標などがあれば教えてください。
T これから取り組みたいのは、本当に勝っている優秀なトレーダーの成績を公開して、誰でも見られるようにすることです。インフルエンサーを集めて、「こんなEAや裁量トレードが良いよ」という基準が作れればいいと思います。オンライン版のFXメディアみたいなものを作っていくか、「日本相場研究所」みたいな名前のサイトを立ち上げて、その中でトレードに関するコンテンツを作り込んでいきたいです。
K 優れたEAがあっても、その価値が十分に広まっていないので、そうした価値がもっと認められるような環境になるといいですね。
対談まとめ
裁量取引のポイント
①たくさんの参加者の心理が平準化された波が、為替相場の値動きである
②優秀な裁量トレーダーは精神的に強く、謙虚で、社会的に成功していて収益も安定している
③短期的に荒稼ぎをする裁量トレーダーは、ブームに乗った一過性であることが多い
自動売買のポイント
①ファンダメンタルズ的な相場観がある裁量トレーダーの成績は、必然的にEAを上回る
②EAが裁量トレードより有利なのは、感情を排除できる点
③EAでは、裁量トレードなら上級者であっても陥るような、経験者の大きな失敗は比較的少ない
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
定価:980円(本体891円)