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神戸大学 岩壷健太郎教授 FXインタビュー|行動バイアスが負け組を量産している事実

神戸大学 岩壷健太郎教授 FXインタビュー|行動バイアスが負け組を量産している事実

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神戸大学大学院経済学研究科教授で金融分野に精通する岩壷健太郎さんに、行動バイアスがFXトレードに与える影響と、その対策について解説していただきました。岩壷先生によると、行動バイアスはトレーダーの投資パフォーマンスを大きく左右する要素だといいます。研究で明らかになった驚きの結果とは?

聞き手◉鹿内武蔵 本文◉諸田裕己

岩壷健太郎氏プロフィール

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FX業界の発展を為替研究から支える

─岩壷先生は金融や為替分野の研究をされていると同時に、現在はFX業界の発展のために、金融先物取引業協会(以下、協会)でもお仕事をされていますね。

岩壷「2011年に協会から学術アドバイザーの依頼を受けたことをきっかけに、日本のFX業界との関わりが始まりました。協会は、金融庁と同じようにFX業者を規制する立場なのですが、平成30年のレバレッジ10倍規制が検討されたときには、FX業者側の意見を代弁するなど、FX業者と金融庁の間に立ってお互いの利害を調整し、間を取り持つ役割を担っています。

 協会からは、FX業界の地位や社会的認識を高めたいので、投資教育などのアドバイスを求められました。例えば、投資セミナーに行くと「FXで儲かってる人は1割で、9割は損する世界」のような表現で、いかにも厳しい業界のように伝えられていますが、実際はそこまで極端ではありません。協会では、OTC市場の取引履歴を基に四半期に1回、顧客ベースでどのぐらいの割合の人が損しているのか、儲かっているのかを公式HPで公開してます。結果を見ると、マーケットがすごく良いときには5割以上が利益を出していますし、悪いときでも利益を出している人は3~4割ということがデータから分かっています。こういった情報公開は、業界の発展にすごく寄与していると思います」

─協会に多くの論文も寄稿されていますが、トレードに役立つ研究結果などを教えてください。

岩壷「研究の結果からは、多くのことが分かっています。大きな分類でいえば、短期トレードの投資家と長期トレードの投資家で、投資パフォーマンスの違いが出ています。取引が完結するまでの保有期間が1時間以内のスキャルパー、1日以内のデイトレーダー、1週間以内のスイングトレードとそれ以上の長期トレーダーに分けて、どのグループが一番儲かっているのかを調べたところ、長期トレーダーになるほど投資パフォーマンスが良くなっていき、平均的にレバレッジの高いスキャルパーのグループが最も悪い結果でした。

 保有期間が短いほど平均的なリターンが悪くなるデータが出たことは、FX業界でも注目されましたが、発表後には「スキャルパーも儲かってるよ」とSNS界隈で多くの反論が出ました。そこで、より深く掘り下げるために機械学習を用いた分析も行いました。これまでの統計方法は、意識的に分けた4グループからの平均的な姿を見ただけでしたが、機械学習を使うと恣意的ではない方法でグループを分類することができます。その結果、短期のトレーダーたちも、一般のスキャルパーと大きな利益を出しているスキャルパーの二つのグループに分かれました。レバレッジは高いけど、しっかり儲かってるスキャルパーがいる一方で、大多数のスキャルパーが利益を出せず平均を下げていたために、従来のグループ分類ではパフォーマンスが悪い結果であったことが分かりました」

神戸大学 岩壷健太郎教授

─確かに億トレーダーと呼ばれる方たちの中には、スキャルパーも多い印象です。なぜ短期トレードの方が利益を出すのが難しいのでしょうか。

岩壷「トレードルールを守りにくい、守らなかったときの損失が大きい、その機会も多いという三重苦がスキャルピングを難しくしている要因でしょうね。そして、負けが続いたときに、次の負けを恐れてルール通りできない人が多いからだと思います。優位性のあるルールでトレードしていたとしても、勝率が下がるときもあります。本来、すぐに損切りすべきはずだったポジションから損失が膨らんでいき、トータルでは儲かっていない人がスキャルパーに多いのです。

 皆さん短期トレードが好きですし、初心者は早く儲けたい欲望がすごく強いので、最初の選択肢にスキャルピングを選ぶ人が圧倒的に多いのでしょう。しかし、レバレッジを抑えながらリスクヘッジするスイングトレードから学んで、そこからスキャルピングに挑戦する方が成功に近づきやすいと思います」

─トレード回数が多いほどコストをたくさん払うのも不利ですよね。1日10回のトレードをする人と月1回だけの人では、約200倍のコスト差がつきます。それを埋めるほどの優位性を短期トレードで出すのは、難しいのかもしれません。

岩壷「ルールを守れない人は、自動売買の検討も良いでしょう。ただし、自動売買は人間よりも非常に機械的な判断をしてしまうので、裁量トレードの方が優位性が高いこともあるのを忘れてはいけません」

行動バイアスの認知と修正がFXで収益改善する近道

─岩壷先生の論文の中では、成功するためには行動バイアスをなくすことが重要、と書かれていました。

岩壷「行動バイアスとは、無意識にとってしまう非合理的な行動のことで、いくつかありますが、トレードにおいて影響が大きいのは『気質効果』です。含み損のある人は損切りをためらいがちになり、含み益がある人はすぐに利確してしまう傾向のことです。投資家なら一度は経験があるのではないでしょうか。

 協会との関係性ができたおかげで、FX業者さんとの共同研究もしています。この研究では、FX業者の顧客からアンケートをとり、その回答者の中から取引データを利用する許諾を得て、アンケート結果と取引データをリンクさせた分析ができました。アンケートでは投資経験、保有期間やファンダメンタルズ・テクニカル分析の有無、情報収集の方法だけでなく、経済学で有名な行動バイアスに関するテストなどもしています。取引データだけでは、いつ、いくらで売買したのか、時間とそのときの価格や数量だけですが、そのデータとトレーダーの性格や選好、行動バイアスという個人的な資質を関連付けることで有意義な研究となっています。

 この調査の結果、投資戦略や取引行動の改善よりも、行動バイアスを認知し修正することの方が投資パフォーマンスの向上には重要ということが分かりました。特に行動バイアスの中でも、気質効果や相対的な自己評価が高い『自信過剰』の傾向が強い人ほど投資パフォーマンスが悪かったです。これは投資戦略や取引行動の差異による投資パフォーマンスの悪さと比較しても、広範囲の人に当てはまり顕著であったことから、行動バイアスを認知して修正する方がより投資パフォーマンスが改善されて勝てるようになるはずです」

─普通の人には行動バイアスがあるのが当たり前という認識をもって、勝つためにはトレード手法以前にまずは行動バイアスの認知と修正が最重要といえそうですね。

岩壷「他には『人は大損するとリスクを高めるのか? 大儲けするとリスクを高めるのか?』というテーマの研究もあります。損失や利益を出した後、その次の取引ではどれぐらいリスクを取るのかをテーマにした研究です。

 中長期のFX投資家の日次パフォーマンスを調査した結果、損失や利益を確定したかどうかで次の取引に対するリスクテイクの度合いが変わっていました。資金に対して比較的大きな含み損や含み益がある場合は、これからもっと良くなるというポジティブな期待を持ってリスクを取る結果となった一方で、一度損失や利益を確定すると、次の取引ではどちらの場合でもレバレッジを低くしてリスクを取らない取引になる傾向が強くなっています」

─損益が確定していない状態では積極的にリスク選好し、人は利益や損失を確定して初めてクールダウンしてリスク回避的になるんですね。

岩壷「マーケットの悪いところで買い、良いところで売ることだけを考えて、自分がいくら利益を出したのか損をしたのかを考えないことが理想的です。特にトータルでしっかり利益を出している人は、この判断がうまいです。自分のトレードルールとマーケットの状態にのみ対応すべきであって、自分の損得感情に対応すべきではないとよく理解しているのでしょう」

神戸大学 岩壷健太郎教授

─相場に自分の都合は関係ないですからね。あらためてまして行動バイアスについてですが、スキャルパーはトレード機会が多いので、行動バイアスに巻き込まれる機会が多く、結果的に短期トレードを難しくしているのかもしれないですね。

岩壷「個人的な考えですが、短期トレードが難しいと感じている方には、エントリーは人間が裁量で行い、決済は機械で行う、という手法がスキャルピングの収益を上げる良い方法だと思います。エントリーの段階では含み損・含み益がない状態ですから、行動バイアスの影響を受けにくいです」

─最後に、読者へ向けてFXで爆発的な成功を収めるために必要なことについて教えてください。

岩壷「トレードには再現性が重要ですから、まずは自分が利益を出せる勝ちパターンを身につけて、それを忠実に守りながらコツコツと積み上げていくことが、安定した資産の増やし方ではないでしょうか。

 特に兼業トレーダーの方は、夜中など限られた短い時間の中で稼ごうとするため、マーケットが悪いときや得意なパターンでないときでもトレードしてしまいがちです。そうではなく、自分のルールと得意パターンまでしっかりと待ってトレードすることを心がけるトレーダーを目指した方が良いでしょう。初心者の方や投資スキルを完全には確立していない方にこそ、コツコツ稼ぐことを目指してもらいたいです。短期的に大きく儲かることを狙うよりも、コツコツ稼いだ方が結果的に1億円へ到達する近道になります」

ABOUT ME
岩壷健太郎
神戸大学大学院経済学研究科教授。早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学経済学研究科修士課程修了、UCLA博士課程修了(Ph.D.)。富士総合研究所、一橋大学経済研究所専任講師を経て、2013年より現職。財務省財務総合政策研究所特別研究官、金融先物取引業協会学術アドバイザー、日本経営財務研究学会評議員を兼務。為替、株式、国債、コモディティの各分野で論文多数。【書籍】『コモディティ市場のマイクロストラクチャー』『グローバル・インバランスの経済分析』その他、論文多数
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