Twitterでの奔放な発信で人気の川崎ドルえもんさん。最近は為替天気予報師という肩書きで「アノマリー」についての発信が増えています。
果たして、アノマリーとはどんなもので、どのようにFXのトレードに生かせるのでしょうか?
聞き手◉鹿内武蔵/本文◉落合彰
アノマリーは第2のテクニカル
―まず、アノマリーとはどういうものなのか教えてください。
アノマリーとは、理論的根拠があるわけではないのに起こりやすい、相場の経験則や事象のことです。例えば、「8月は円高に動きやすい」とか「スタジオジブリの作品が放映されると円高に動きやすい」といったアノマリーがあります。簡単にいうと、季節性要因ですね。相場の季節性要因はトレードに生かすことができると思ったので、個人的に分析・研究するようになりました。
―その研究結果を無料で公開されていますが、どのような意図があるのでしょうか?
アノマリーの無料公開は、自分のためでもあります。私はデータを計算したら満足してしまう性格で、そのデータを見てもトレードの考えがまとまらないときがあります。しかし、アノマリーを文章にして公開するときにはきちんとデータを見て精査するので、自分の中で考えがまとまりやすくなるんです。また、情報を公開することで初めて気づくことも少なくありません。自分の考えを体系化して整理できるので、ブログとしてアウトプットしている感じですね。
―アノマリーはどのようにトレードに活用すべきだとお考えですか?
私は、アノマリーは第2のテクニカルだと思っています。よく使われる移動平均線などのテクニカルは、過去の値動きから計算して求められるものです。アノマリーも過去データに基づくものですから、テクニカルと同様に相場判断の有力な材料になると考えています。
FXはコイントスに似ていて、1回の結果に固執する必要はないと思います。コイントスで表と裏が出る確率はそれぞれ2分の1のはずですが、コインの内部の重心がずれているなどの理由があって、10回中8回表が出ることもありますよね。このように表が出やすい癖があると分かっていれば、どちらが出るかを当てる確率を高めることができます。それと同じで、FXでもそういった値動きの癖を知ることが大切です。
例えば、〇月〇日は過去80%の確率で陽線がついているのであれば、ロングをした方が勝ちやすいでしょう。アノマリーはあくまで過去の傾向であり、100%その通りになるわけではありません。当然、アノマリーとは逆方向に値動きして負けることもありますが、信じてエントリーし続けることで勝率を高められると思います。
また、アノマリーはテクニカル指標と併用してエントリーの精度を上げることにも活用できます。「アノマリーで陽線がつく確率が高い日に、テクニカル指標で上昇トレンドへの転換を示唆したらロングでエントリー」というように、トレードの補助的な役割として使うことができます。通貨ペア別にデータを取っているので、その日にどの通貨ペアが動きそうかというトレンドを察知することも可能です。
―なるほど。応用範囲が広く、活用するメリットは大きそうですね。読者の方がアノマリーをトレードに取り入れる場合、ブログを参考にすればよろしいでしょうか?
そうですね。為替に関してはブログで31通貨ペアの月足・週足・日足までの情報を出しているので、まずはそれを見ていただければと思います。日足の情報だけでもトレードに生かせるのではないでしょうか。例えば、6月27~29日は円安アノマリーが出ていたんですけど、見事に今年も円安になってくれたので利益を得ることができました。ブログに公開している情報を、相場観の形成やトレード方針の決定に役立ていただければ幸いです。
資金管理を覚えてからFXの収益が上向きに
―話は変わりまして、これまでの投資歴を時系列で教えてください。
FXを始めたのは2011年、24歳のころです。これまでの投資歴は11年で、専業トレーダーとしては3年目になります。昔から自分の飲食店を持つのが夢で、その開業資金を準備するためにFXを始めました。
普通の仕事だけではなかなか資金が貯まらなかったのでFXで稼ごうとしたのですが、最初の5年間くらいは損失ばかり出していましたね。その状況を打開するためにいろいろと考えた結果、リピート系自動売買の弱点を補う「グルグルトレイン」が生まれたんです。グルトレを開発していく中で、FXで稼ぐには資金管理が大事ということに気づき、とにかく資金管理について学びました。資金管理を理解することでFXの収益が劇的に良くなっていき、今から3年前に仕事を辞めて専業トレーダーとして生活するようになりました。
―その間、FX以外の投資にはチャレンジしなかったんですか?
はい、FXしかやっていないです。ただ、これからは株を始めようと思っています。株はまだ勉強している段階ですけど、FXよりアノマリーが効くのが魅力ですね。特に個別株には季節性アノマリーの傾向が出やすいので、アノマリー投資として株は強いと思っています。
―初心者時代には、どういう勉強をしてきましたか?
ひたすら本を読んで勉強しましたね。安い本でも問題ないと思ったので、古本屋で100円くらいで売っているFX本を買いまくって読んでいました。またFX本以外に、テクニカルに関連する標準偏差、フィボナッチ数列といった確率や数字の本、精神面を強化するためにメンタル関係の本なども読んでいました。私は本を読むことで成長でき、専業トレーダーになれた部分も大きいと感じています。
―今振り返ってみて、大失敗だったという初心者時代の経験はありますか?
2015年に起きたスイスフランショックのとき、私はショートポジションを持っていたので1日で35万円もの利益を出すことができました。これだけ聞くと成功談なのですが、FXはそう甘くありません。たった1日でサラリーマンの月給ほどの金額を稼いでしまったことで旨味を覚え、その後もずっと同じくらい稼げると錯覚し、ロットを張って大きな利幅を狙うトレードスタイルに変えたのがいけませんでした。トレンドのときは儲かりましたけど、相場の7~8割はレンジといわれています。レンジ相場で往復ビンタを食らい、結局、稼いだ35万円を全部失うことになりました。これが大きな失敗ですね。
8時、15時、22時に必ずチャートを確認
―最初にうまくいきすぎるのも考え物ですね。専業トレーダーになった今は、どのような生活をされているのでしょうか?
専業になってからは、夜寝ることもあれば朝寝ることもあり、結構不規則な生活をしています。ただ8時、15時、22時には必ずチャートを見るようにしています。
朝の5~7時はスプレッドが開きやすいので、スプレッドが落ち着く8時くらいに1回目のチャートチェックを行います。
15時にチャートを見るのは、株の取引が終わり、ロンドンの早出組が出てくるからです。最近は15~16時の値動きがそのまま夜中まで続くことが多いので、チェックするようにしています。
22時は米国市場が本格化し、重要な経済指標も発表される時間なのでチャートを見ますが、それを基にポジションを変えることはほぼしません。
また、一週間の始まりとなる月曜日の早朝4時に価格がどうなっているのかチェックするようにしています。私はスイングトレーダーなので、基本的にチャートと睨めっこする時間は少ないです。
―チャートの確認以外に情報収集の時間を設けていますか?
情報取集にかける時間は少ないと思います。私はテクニカル派でチャートを重視しているので、情報としてFX会社が提供している経済指標と世界の株価ぐらいしか見ていません。情報を集めすぎると、逆に頭の中が混乱しますからね。情報は参考程度にとどめ、テクニカルに基づいてトレード判断をするのが私のスタイルです。
―今後、実現したい夢や目標はありますか?
飲食店の開業を諦めたわけではないので、それをいずれ実現できればと考えています。SNSでバズるような、写真映えするお洒落な商品を提供できるお店を出せると面白いですね。あとは、億り人になるのが目標です(笑)。
FXは経済の勉強をするのに最適な投資
―では、初心者トレーダーが成功する秘訣を教えてください。
とにかく本を読むことですね。FXコーナーに置いてある本だけでなく、経済学、統計、確率、確証バイアスなどに関する本を読み漁るべきだと思います。特に精神的な不安があるという方は、確証バイアスの本を読むことをお勧めします。確証バイアスがかかっている状態だと、自分にとって都合の良い情報ばかりを集めて自己の先入観や思想を補強しようとするので、トレードがうまくいかないことが多いです。初心者向けの本もたくさん出ていますし、読んでおいて損はないと思います。
最近はインターネットでもさまざまな情報を収集できますが、表面的な内容のものが多いように感じます。専門的な知識をしっかりと身に付けるには、やはり深堀りされた書籍の方が良いのではないでしょうか。
―最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
FXで勝つのは正直難しいですが、無謀なトレードさえしなければゲーム感覚で楽しめる面白い投資商品だと思います。何より、FXをやっていると経済的な情報が絶え間なく入ってくるので、経済に詳しくなるのが大きなメリットです。例えば、物価上昇というと、一般の人は単純に物の価値が上がっていると捉えますが、経済を知ると物の価値が上がっているのではなく、お金の価値が下がっていることが理解できます。
経済に詳しくなると日々の生活が潤い、人生観が変わっていきます。豊かな人生を送るためだと思えば、FXの勉強も楽しく取り組めるのではないでしょうか。最初は損失ばかりかもしれませんが、1回のトレードに固執せず、一生で儲かるように心がけていきましょう!
インタビュー日◉2022年7月5日
アノマリー情報をトレードに取り入れる考え方
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