トレイダーズ証券取締役(CSO)にして為替ディーラーの井口喜雄さんに、現役ディーラーならではの鋭い視点で2022年前半の相場を振り返ってもらいつつ、勝ち組トレーダーになるための秘訣や心構え、FX業界発展に向けた取り組みについても教えてもらいました。
聞き手:鹿内武蔵/本文:北原拓実
強烈な円安の要因はコロナ相場の後遺症
―井口さんは、トレイダーズ証券の現役為替ディーラーとして日々相場と対峙されています。2022年前半は相場が大きく動きましたが、なぜこのような強烈な円安になったのでしょうか?
ここまで強烈な円安になったのは、コロナ相場のツケが回ってきたからだと思います。
コロナ相場では、世界中の中央銀行が、国の財政赤字がどれだけ出ようが、インフレやバブルになろうが、経済を回さなければいけないとマーケットにお金を入れ続けていました。その結果、世界中がインフレに苦しんでいます。コロナ相場の反動が、2022年になって表面化した形だと個人的には考えています。
円安に関しては、日本だけが金融緩和を維持しているので、シンプルに金利差で円が売られ、強烈な円安になっているのではないかと。
―政策金利に注目すると、日本だけがゼロ金利で諸外国が引き上げていったことは過去にもありました。ここまで激しい円安になるのは、今までとは何か違う部分があったからでしょうか?
米国の消費者物価指数(CPI)が9%に上昇するなど、世界中がこれほどのインフレになるのはこれまでになかったと思います。日本と各国の金利差で円が売られるという過去のシチュエーションと大きく異なるのは、インフレの規模やスピードだと思います。
少し前までは世界各国もゼロ金利でした。そこから急激に日本と世界の金利差が拡大していますが、これは今までにない経験です。
そういう未体験のマーケットに直面して市場参加者が狼狽しており、ボラティリティも高くなっているので、これだけ急激な円安に振れたのだと思います。
―この円安相場は、今後も継続していきそうですか?
円安に関しては、日銀が金融政策を変更しない限りは続くと思います。小手先の為替介入や口先介入があっても、根本が変わらない限りは円安が続いていくのではないでしょうか。日銀の黒田総裁は、来年の4月まで任期があります。おそらく金融政策は変えないと思うので、来年の4月までに辞任したり方針を大きく変えたりしない限りは今の状況が続くでしょう。
ただ、これだけ急激な円安になっていると反動も大きいので、その下落を取れるようにしっかりと相場に目を凝らしておきつつ、現在のトレンドが崩れるまではしっかりと円安についていきます。
強いトレンドに乗るにはトレンドフォローが大切
―トレーダー目線で過去の相場と比較して、2022年前半はトレードはしやすかったでしょうか?
ボラティリティが高かったので、トータルで考えたらやりやすかったです。今年の3〜6月は、ボラティリティがこれまでの1.5倍くらいに上がっています。慣れるまで大変でしたが、値動きがあってチャンスも多かったので、個人的にはやりやすかったです。
また、弊社が運営している「みんなのFX」と「LIGHT FX」で取引しているユーザー全体の傾向として、保有ポジションが含み益になっている人が増えています。FXでうまくいかない人は利小損大になるケースが多く、含み損を抱える人の方が多い傾向がありますが、現在は含み益の人の方が多いという非常に珍しい状況です。
昔からロングで保有しているポジションが円安になって儲かっているのでしょうね。ロングすれば儲かる環境なので、クロス円を中長期でロングするトレーダーや、スワップポイント狙いのトレーダーはやりやすかったのではないかと思います。
―今の相場はボラティリティがあってやりやすいということですが、ボラティリティはどのように判断しているのでしょうか?
ボラティリティの判断方法は人それぞれあると思いますが、例えば、ボリンジャーバンドのバンドがエクスパンションしていればボラティリティがあると判断するのが良いと思います。その他には、ボラティリティを数値化したヒストリカル・ボラティリティというテクニカル指標を見て判断するのも有効な方法です。
―続いて、現在の円安相場のような強いトレンドに乗るための技術や準備、心構えを教えてください。
私は、トレードの王道はトレンドフォローだと思っています。短期で売買している人は別として、スイングトレードや中期目線でポジションを保有して構築していく場合は、必ずトレンドフォローをしないといけません。やることは単純で、買われている銘柄を買って、売られている銘柄を売るだけです。トレードの王道はトレンドフォローと考えていれば、強いトレンドにしっかりと乗れると思います。
基本的に、逆張りの考えは捨てた方が良いです。どうしても値ごろ感や買われすぎ、売られすぎを意識してしまいますが、それは短期のプレイヤーが考えていくことです。スイングトレードや長期目線のトレードは、しっかりと値幅を取っていくことが稼げる方法なので、常に相場の流れについていく意識を持っておくことが大切です。
金融リテラシー向上の取り組みをしていく
―話題を変えまして、5年前、10年前と比較してFX業界の変わった部分はどこでしょうか?
FX業界は、2011年のレバレッジ規制で環境が大きく変わりました。当時はレバレッジ200倍や400倍で取引できる時代で、ギャンブル的要素が強かった部分もありましたが、レバレッジが最大25倍に規制されたことで健全化したと個人的には思います。
また、2020年からFX会社向けのストレステストが始まっています。ストレステストとは、リーマンショックやスイスフランショックのような過去最悪クラスの値動きが起こった場合に持ちこたえられるかのテストで、毎日やっています。このストレステストに合格しなければ、FX会社は取引を提供することができません。
レバレッジ規制やストレステストなどの規制強化で、多くのFX会社が淘汰されています。財務の健全性が高まっていて、ちゃんとしたFX会社しか残っていないところが、10年前と比較して大きく変わった部分ですね。
現在は、FX会社間でスプレッド競争はもちろん、スワップポイントまで競争している時代です。トレーダーにとっては、5年前や10年前よりも取引しやすい環境になったのではないでしょうか。
―確かにトレード環境はひと昔前に比べ、だいぶ良くなったと感じます。では、この業界で改善すべき点を教えてください。
業界全体では、財務の健全性やサービスの質が向上しています。しかし、その一方でFXはレバレッジ商品ということをしっかり理解しないまま、簡単に取引できてしまう側面もあります。
簡単に取引できるのは良いところですが、「簡単に儲けられる」と捉えられてはいけません。FXはデリバティブ商品でリスクがあることを周知させ、安易に儲かるという方向に行かないように業界全体で改善していくべきだと思います。
勝ち組になるためにはトレードを続けましょう
―FX業界が良い方向に変わりつつある中、御社としてはどのような取り組みをされているのでしょうか?
弊社は、「個人投資家の皆さまに機関投資家に負けない投資環境を」という企業理念を基に、スペックにはこだわっています。特にみんなのFXのスプレッドやスワップポイントに関しては、他社とぜひ比べてほしいと思うくらいがんばっています。
例えば、スワップポイントが売りと買いで同値なのは、店頭FXの会社だと弊社くらいだと思います。コスト負担がとんでもない額になりますが、プロの投資家に近い環境を個人投資家の皆さまに提供したい一心でやっています。スペック面の強化は何年も前から取り組んでいるので、今後もしっかりと続けていきたいですね。
また、会社として金融リテラシーの向上に力を入れていきたいと思っています。私事になりますが、週1回の頻度でYouTubeの動画投稿を始めた他、『1日で数百億を動かす現役ディーラーが教える 勝者のトレード』という本も書きました。本を書いた理由の一つに、金融リテラシーを高めてほしいという思いがあります。
その他の取り組みとしては、「きんゆう女子。」という女性の金融リテラシー向上を支援する企業と協働を始め、セミナーを開催して為替についての講演をしました。これからは学校でも金融教育が義務化されるので、弊社も金融の柱となる外国為替の仕組みを皆さんに知ってもらうための活動を、今後はさらに加速していきたいと考えています。
―最後に、読者の皆さんに成功するためのアドバイスをお願いします。
最終的な結論としては、売買を繰り返すしかないと思います。それでも億を稼げるトレーダーに必ずなれるわけではありません。大きく稼ぐにはある程度の資金力が必要で、センスやメンタルが他の人よりも抜けていないと無理です。
まずは、自分に合ったトレードスタイルを見つけることですね。ただし、無理をしてはいけません。FXはランダムに動くマーケットでトレードしていくのでストレスもたまると思いますが、聖杯や必勝法がないことを理解していれば、何とかいけるのではないでしょうか。
マーケットで生き残って売買を続けてさえいれば、勝てるところまではいけると思うので、信じて続けていってください。トレードがうまくいかない時期が来てもあきらめずに続けていけば、最終的に勝ち組になれると思います。
インタビュー日◉2022年7月21日
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
定価:980円(本体891円)