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期待失う米国の戦略的備蓄、アノマリーを再度意識
トランプ大統領は3月7日、戦略的ビットコイン準備金を設立する大統領令に署名した。
米国政府は約20万ビットコイン(約2400億円)を所有しているとされ、これまで完全な監査は行われていなかったものの、今後はその保有量の完全な会計処理が指示される。トランプ大統領はこの署名の際、「約束はしっかりと果たした」と述べ、ビットコイン準備金が米国のデジタル資産政策に重要な役割を果たすと強調した。
残念ながら今回の大統領令では、既に押収されたビットコインを準備金として保管するという内容で止まり、アルトコインの準備金への組み込みは明言されなかった。この動きは長期的には暗号資産市場におおむねポジティブな影響を与えると見られているが、短期的には市場が失望した様相だ。
高値圏を維持していたビットコインの価格にネガティブな影響を与えたニュースは他にもあった。
2月21日に世界で3本の指に入る暗号資産取引所Bybitで2200億円相当のハッキングが起こった。その日深夜に事件を目にして、2022年11月のFTXの破産騒動を思い出した。当時の11月初旬にFTXの財務状況への疑念が報じられ、業界最大手の取引所バイナンスがFTXの資産を清算する意向を示した。
その際、顧客が一斉に資金を引き出そうとして、FTXは資金繰りが悪化し、最終的に破産を余儀なくされた。いわゆる取り付け騒ぎが起こってしまったのだ。FTXの破綻に伴って市場は混乱。2万ドル前後を推移していたビットコインの価格は最終的に約30%下落し、当時11月中旬に一時的に1万6000ドルを割り込み、年初来安値を更新した。
Bybitはハッキングの詳細をユーザーに公開し、事件の経緯や影響を説明してユーザーの信頼を一定維持。内部資金とブリッジローンを組み合わせて、すべての損失をカバーできると発表し、迅速かつ透明性のある対応が取られた。業界から一定の評価もあったが、現状もハッキング前水準まで預かり総額は戻っていないとされ、ローン返済に向けた資金調達の課題は残っているとみられる。
時期を同じくして、トランプ大統領による関税強化の方針も発表された。米国と他国との間での貿易摩擦が懸念され、暗号資産等のリスク資産への投資意欲が低下している状況だ。
総悲観の中でCMEの窓埋めを完了
FTXを思い出す強烈な下落に市場が悲観的になる一方で、底固めの兆しも見え始めた。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のビットコイン先物における「窓埋め」の確率が非常に高いとされている。
過去のデータに基づくと、CMEの窓が開いた場合、80〜90%の確率で窓が埋まるとされており、ほとんどの場合30日以内に埋まるという見解もある。

昨年11月頃にビットコインの価格が7万8000ドルから8万ドルの範囲で同ギャップが形成されており、直近の10万ドル割れから7万8200ドルの下落をみればCMEの窓埋めが行われたと説明も付く。
大きなロングポジションの清算を伴う中で市場の見方はフラットに戻りつつあり、7万8000ドルを起点にトレンド転換も考えられるが、ビットコインが大幅に上げる要素も今のところ見当たらないのが残念だ。少し時間はかかりそうだが、いったん調整が落ち着く価格帯ではある。Bybitのハッキングに関する動向を注視しつつ、ビットコインに資金が戻るポジティブなトピックが積み上がれば、年末にかけて再び最高値更新を目指す動きもあるだろう。
今年の暗号資産市場を占う3つのポイント
今年の暗号資産市場の動向に関心を持つ投資家は多いだろう。注目すべき3つの要素を整理したい。
1つ目は米国における暗号資産の戦略備蓄。現在出ている戦略備蓄に関する情報に加えて、あらたにビットコインやその他の暗号資産を市場から調達して組み入れるなど、ポジティブなサプライズは常に注視すべきだ。実際、世界的に見れば、ファンドや大学基金・財団だけではなく、企業までもがビットコインをポートフォリオに組み入れつつある。
2つ目は現物ETF承認の動向。XRPやSOL、その他米国拠点のアルトコインの現物ETFが認められ始めれば、トランプ政権の新体制本格始動に対して、市場の楽観ムードが高まる可能性がある。特に、イーサリアムのステーキング報酬が毎日の取引終了時にETFの持分に加算され、現物ETFを通じてステーキング報酬を間接的に受け取る仕組みが承認されれば、機関投資家には大きなメリットとなり、資金流入の増加が期待される。
3つ目は、イールドカーブ拡大によるステーブルコインの発行量増加。イールドカーブが拡大すると銀行の収益が改善する。米ドルに価値が連動するUSDTなどのステーブルコインは、米国債などを裏付け資産にしている。つまり、短期金利が低く、長期金利が高い場合、銀行は低い金利で資金を調達し、高い金利で貸し出せるため、利ざや(貸出金利と預金金利の差)が拡大し、発行動機が高まるというロジックだ。市場にステーブルコインが多く流通すれば、量的緩和に近い環境が暗号資産市場で起こりえるため、需要と供給が共に増加し、市場にポジティブな影響が見込まれる。
目先の材料は出尽くして調整局面にある暗号資産市場も、底固めが終われば年末にかけて再度高値更新に挑戦する動きがあってもおかしくない。
(『外国為替』vol.15より)