FXでトレードを始めるも、リーマン・ショックで退場した経験のあるPANさん。そこで諦めることなく、2013年から米国株投資を開始。今は億り人となり、憧れのFIRE生活を送っています。
そんなPANさんに、負けトレーダーから勝ちトレーダーになる方法を教えてもらいました。
PAN氏プロフィール
米国株研究家、専業投資家。2013年在米時に米国株投資を始めた。シリコンバレーで6年間ハイテク企業へ勤務。金融資産3000万円から8年で3億円超。米国株投資のYouTubeチャンネルは登録数5万人、SNSの総フォロワーは8万人を超える。証券会社等のセミナーでの講演を多数経験し、YouTube番組を複数運営している。各種メディアや日経ラジオにも出演。YouTubeでは米国株投資に重要な情報を解説し、米国の相場の今と今後の見通しを発信している。
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聞き手・本文◉荻田里佳
リーマン・ショックで大打撃。FXで全財産を失くして退場
─まずはPANさんの経歴を教えてください。
PAN 今は専業投資家ですが、以前は米国のハイテク系の会社でマーケティングの仕事をしていました。
─てっきり投資系の会社に勤務されていたのかと思っていました。株を始めたきっかけは覚えていますか?
PAN 2013年から合計6年間米国に住んでいて、銀行に行ったときに投資を勧められたのが始まりです。銀行へ投資を一任して運用してもらう商品「ラップ口座」で投資の第一歩を踏み出しましたが、半年で資金が減り、全く儲かりませんでした。そのため「これは自分でやるしかない」と考え、兼業で個人投資家になる道を選択しました。
─ラップ口座で失敗されたときに投資を辞めようとは思わなかったんですね。
PAN 2000年ごろに投資家・ロバート・キヨサキの著書『金持ち父さん貧乏父さん』を読んでから、投資は絶対に必要なものだと考えるようになりました。それからしばらくしてFXに手を出しましたが、2008年のリーマン・ショックで失敗してほぼ全財産を失くしたんです。
そのころは勉強をしないまま、流行っていた高金利通貨のNZドルに手を出して約10倍のレバレッジをかけて投資をしていました。当時は、過去のチャートを見て過去10年の最安値でも耐えられるポジションをとっていたのですが、100年に一度といわれるリーマン・ショックが来てNZドルが暴落し、そこでほぼ全財産を失くしました。要するに退場経験者ということです。退場後はお金がなかったので、5年ほどは投資から離れました。
─今振り返ると当時の敗因は何だと考えていますか?
PAN 勉強せずにFXをやってしまったことです。知識が乏しい中、過去10年ぐらいのチャートを見て「ここまで下がることはないだろう」「だから、レバレッジ10倍でも大丈夫だろう」と、非常に浅はかな考えでトレードをしていたことが原因だと思います。
─FXで退場した後、日本株ではなく米国株を始めた理由を教えてください。
PAN 当時は米国在住、勤務先はハイテク企業でしたので、馴染みのある米国ハイテク株からチェックしました。「あの会社は素晴らしい製品を持っている」と自分自身で感じた会社の株から買い始めたのが始まりです。
─最初の投資資金はどれぐらい貯められましたか?
PAN 2008年にFXで退場を経験した後、2013年までに3000万円を貯めました。当時は上場前の会社に勤めていて、新規公開株式「IPO」となった際、一定期間内に自社の株式を購入できる「ストック・オプション」の権利を行使し、株式を取得・売却をしたので、まとまったお金を手にしたんです。そのインセンティブとコツコツと貯めた労働収入を合わせて、投資資金3000万円でスタートしました。
─5年で3000万円貯めるのは簡単なことじゃないですよね。そして、現在は3億円まで増やした億り人になったということですが、今も会社員との兼業で投資をされているんですか?
PAN いえ、去年の夏にFIREして専業になりました。
─FIREに憧れている人も多いと思いますが、株で勝つには相性の良い相場で勝負することが必須ですよね。PANさんが最も利益を伸ばしたのはどの時期の相場ですか?
PAN 米国株を始めた2013年から2018年です。この5年はどの株を買っても上がる時期だったと認識しています。一方で、2022年は長期でダラダラと下がり、苦しい時期でしたね。コロナショック(2020年)などはベアマーケットだと判断できましたが、2022年に関してはあんなに長期でダラダラと下がるとは思っていませんでした。
─2022年といえば、ロシアのウクライナ侵攻が2月に始まりましたよね。米国株の下落と関係していますか?
PAN 投資の世界には「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」という格言があるので、この格言通りであれば米国株は買い優勢のはずでした。しかし、ロシアが世界経済から外されるということは、マーケットも少なからず影響を受ける可能性があるということ。格言だけを信じるのは危険なので、戦争を機に、僕は保有していたポジションを減らしました。結果的に下落相場となったので、あの状況でリスクを回避したのは間違いではなかったと思います。
英語ができなくても問題なし。海外ニュースはAI翻訳で収集
─日本に居ながら米国株の情報を得るのは難しいイメージがありますが、PANさんは何から情報を得ていますか?
PAN 英語版のBloomberg、THE WALL STREET JOURNAL、CNBCなどの海外のニュースサイトや米国政府系のサイト、経済指標などをチェックしています。
─やはり英語は必須なんですね。
PAN 3年くらい前は英語ができなければ情報収集は難しかったと思いますが、今はAI翻訳が進んでいるため、英語が分からなくても問題ありません。
─英語ができなくて尻込みしていた人には朗報ですね。情報収集には、どれぐらい時間をかけていますか?
PAN 米国は、マーケットが開く1時間前に経済指標などの発表があることが多いので少なくともその時間は海外ニュースを、クローズする1時間前ぐらいからは値動きを見ています。チャンスがあれば、値動き次第でエントリーをすることもあります。
─NY市場は日本時間23時30分~翌6時00分(夏時間22時30分~翌5時00分)なので、日本にいると生活リズムは昼夜逆転しますよね。
PAN はい。NY市場が開いているときは起きていますし、マーケットがクローズした後の1時間で、YouTube動画を撮影・編集・アップロードするので、大体朝7時ぐらい(夏時間は6時)に寝ています。起きるのは14時ぐらいです。僕はデイトレードをしているわけではありませんが、NY市場が開いている時間帯はチャートを常にチェックできる環境を作って、大きなニュースがあった場合はいつでも確認できるようにしています。
─米国株とFXで、共通して注目すべきことを教えてください。
PAN ドル円のトレーダーと米国株投資家は、金利に注目しますよね。金利が為替の値動きを左右するように、米国株も同じく金利の影響を受けます。また、経済指標は必ずチェックして理解しておかなければならないことなので、ファンダメンタルズで見るべきところはFXと似ているかと思います。
─FXトレーダーは米国株取引をするのに向いているかもしれませんね。しかし、S&P500は今年15回目の最高値を更新し、高値掴みをするのが怖いというトレーダーもいると思います。PANさんは今が天井ではないと思いますか?
PAN これからも上がると予想しています。そして、米国株への理解を深めるために、FXと米国株の違いについて理解すると、勝率も変わると思います。米国株はトレンドが強く出やすいのが特徴です。一度トレンドが出ると、押し目が出ずに上がり続けるのは珍しくありません。レンジを形成しやすいFXとは違いますよね。そのため、米国株への投資は、高値掴みのリスクを覚悟してエントリーするのも手です。損切りの覚悟さえあればどこでもエントリーできると思うので、損切りができるトレーダーは米国株に向いていると思います。
─PANさんの損切りルールを教えてください。
PAN 持っている銘柄が多いため、ルールはシンプルにしています。株を購入したら一定幅ずつ有利な方向へ逆指値をスライドさせるトレーリングストップをセットしていて、利確も損切りも15%を下回れば自動で行われるようにしています。自らポジションを閉じるのは、ファンダメンタルズで心配な要素があったとき。特に決算発表を落とした場合は、株を保有するのに値しない企業と判断してクローズします。決算落としは許されない行為なので……。
─ファンダメンタルズを考慮する際、連邦準備制度理事会=FRBが発表する内容も重視されると思います。最近はFRBのどんな発言に注目されていますか?
PAN FRB高官の発言などには毎回注目します。直近では、財務状態を示すバランスシートの縮小ペースを緩めることが報道され、金融引き締めのペースが緩やかになる可能性があることが分かりました。ニュースを一つずつ読み解いていくと、FRBが言いたいのは、米国経済が強く、景気後退の兆候はないということだと僕は理解しています。株にとってはプラスな状況で、今後押し目を作る可能性もあり、買い場だと思います。
─今年仮に米国株が落ちる局面があっても、それは押し目だと判断して良いということですか?
PAN はい。2023年ほど強い上昇ではないかもしれませんが、今年も良い相場だと予想しています。
─11月には米国大統領選挙も控えています。大統領選は株価にどのような影響を与えると思いますか?
PAN バイデン大統領が再選するということは、米国人が今の経済に満足しているということ。すると、株も上がりますよね。一方で、バイデン大統領が破れたら現在の米国経済に国民は納得していないという結果になるかもしれませんが、対抗馬のドナルド・トランプ氏は経済に強いと定評がある人物。トランプ氏が返り咲いたとしても株にはプラスに働くのではないかと見ています。
ファンダメンタルズとテクニカル、二つを照合してタイミングを探す
─PANさんが今年注目しているセクターを教えてください。
PAN 今年はどこかのタイミングで利下げがあると言われているので、利下げで株価が上がるセクターを買うと良いと思います。金融、スモールキャップ指数「ラッセル2000」は利下げで上がりやすいので検討してみるのも良いのではないでしょうか。利下げの時期については、今年の夏ごろ、もしくは後半あたりという情報があり、不透明ではありますが、ポジションを持つなら利下げが発表される前がオススメです。個別株の場合も見極めが必要ですが、良い企業があれば4月にポジションを持ってもマイナスにはなりにくいと思います。
─米国株へ投資するには、ファンダメンタルズの理解が必要不可欠ですね。一方で、エントリーをするタイミングは、テクニカルを参考にすることはありますか?
PAN トレンドラインなどのシンプルなテクニカルは活用していて、ファンダメンタルズと合わせて活用しています。チャート上には、トレンドラインを上下に引き、トレンドライン付近まで値動きが戻ったら買いを入れます。そのほかには、ダブルトップやヘッドアンドショルダーなどのチャートパターンなどが出現していないかを確認しています。
─移動平均線の使い方も教えてください。
PAN トレンドラインと使い方は同じで、200日移動平均線にタッチして反発しそうであれば、買いを入れます。200日移動平均線でサポートされず抜けてしまった場合は、短めのストップ注文を入れて、移動平均線を上抜けたタイミングで買い注文が入るように逆指値を入れます。
─デイトレは全くしていないんですか?
PAN 少額ですが、CFDやFXでデイトレすることはあります。
─FXをする際にもファンダメンタルズを参考にされますか。
PAN もちろんです。米国株と同様、FXをするときには米国債券10年利回りは常に見ていますね。金利が下がれば、ドル円も下へ行くと予想できますし、株は上がりやすくなります。
─2008年のときにやっていたFXと今のトレードスタイルを比べて、何が変わったか教えてください。
PAN 2008年のときは、何を見てトレードすべきか分からないままやっていたので、現在とは全然違いますね。もちろん勝率も違いますし、今FXで勝ちまくっているわけではありませんが、負けてはいません。退場しないことが大切ですよね。
損切りが苦手ならハードストップ、逆指値を入れて自動的に撤退
─話は米国株に戻ります。現在保有している銘柄数を教えてください。
PAN 現在は約20銘柄を保有しています。個別株一つに集中投資する人もいますが、その場合大きく儲かるか、大きく損をするかの二択。損をしてしまうとダメージが大きくなってしまうので、分散した方がいいと思います。僕が億り人になれたのも、一極集中は避け、リスクを分散させて、伸びる銘柄を握り続けていたからだと思います。
─銘柄の入れ替えのサイクルを教えてください。
PAN 15%に設定したトレーリングストップで決済されたら、別の銘柄を買うのか、再エントリーを試みるのか、その時点で判断します。監視しているのは50銘柄ほどあるので、その中から選ぶこともありますね。
─監視する期間は決まっていますか。
PAN 特に決めてはいませんが、テスラは5年以上見ています。この3年はエントリーポイントがなかなかなく、チャンス待ちの状態です。基本的には押し目を待って買いを入れるのが理想の投資スタイルなので、タイミングを待つ時間が長くなることも少なくありません。
また、監視している約50銘柄は、一覧で何%上下したのか毎日確認し、10%以上価格が変動した場合は、チャートを見て情報収集します。
─押し目なのか、下方向が強くてこのまま落ちるのか、トレードをしていると悩むこともあると思いますが、何を見て判断しますか?
PAN MACDを参考にしつつ、3回以上下値が切り上がっていたら買いを入れるなど、下落が止まったかもしれないサインをチャートから読み取って買うようにしています。
─押し目を待って買いを入れるのが基本の投資スタイルだということですが、株価が下落し続ける局面に出くわすこともありますよね。その際は何をするんですか?
PAN 僕は売りが得意ではないので、下落中はポジションを減らします。そして、下がり切ったところでエントリーを狙います。
─勝ち続けるにはリスク管理も徹底しなければなりませんよね。PANさんの考えを教えてください。
PAN 僕の場合はトレーリングストップを15%に設定しているので、マイナスになっても自動的に切られます。15%というのが僕にとっては、大きなダメージにならない額なんです。
そして、これから投資を始める人は、「ソフトストップ」と「ハードストップ」の考え方をぜひ覚えてください。頭の中で「ここで損切りしよう」と考えるのがソフトストップ、実際に発注した損切りラインのことをハードストップと言いますが、あらかじめ決めたソフトストップの価格帯で損切りをできない人も多いと思います。その点、ハードストップは、注文を入れておけば必ず執行されるので、エントリーと同時に逆指値を入れたり、トレーリングストップを使ったりすることを僕はオススメします。
損切り幅も大きくしすぎてはいけません。資金から逆算して、許容額を超えないように設定してください。株初心者の場合はここが難しいかもしれませんが、FXをやっている人はしっかり損切りについても学ばれていると思うので、米国株で痛い目に遭うのは防げるのではないでしょうか。
─FXトレーダーが米国株をするなら、何がオススメですか。
PAN 株価指数のCFDはFXと同じ仕様で、レバレッジをかけて、買い・売り、どちらもできるので理解しやすいと思います。
─米国株に投資する際の注意点を教えてください。
PAN FXは、値動きがレンジになることが多く、5年前の為替の値に戻ることは珍しくないですよね。それに比べて、米国株が5年前の株価に戻るのはあまり見たことがありません。基本的に株価は上昇する傾向にあって、米国株は一度トレンドが出ると、二度とその価格帯に戻ってこないというのはザラにあります。そのため、FXよりもトレンドに乗ることが重要ですね。
─最後にこれから米国株を始めたいと考えている人へアドバイスをお願いします。
PAN 「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、まずは投資を好きになってほしいですね。好きになれば投資のために経済指標を見るのも嫌なことではなくなり、自分が大好きなスポーツの結果を見るのと同じような感覚で見られるようになると思います。好きになれば、投資の勉強をする時間も楽しくなり、自然と投資が上手になり、資産が増えていくというワケです。考えるとワクワクしますよね。楽しい気持ちを大切にして、投資と向き合ってみてください。
インタビュー日◎2024年3月7日
【Pick up1】トレーリングストップとは?
トレーリングストップでは、価格が有利な方向に動いた場合、ストップ注文も一定幅ずつスライドしていき、相場が反転した場合は、トレールされた水準で決済される。あらかじめ設定した価格の差を維持しながらトレールするため、損失を限定しつつ、利益を伸ばすことができる。
【Pick up2】トレンドラインと移動平均線の使い方
買いを入れるのは、トレンドラインや200日移動平均線にローソク足がタッチしたタイミングで検討。200日移動平均線を下抜けた場合は、次に上へ抜けるタイミングを狙ってストップ注文を入れる。トレンドラインは上下に引き、下のラインにタッチしたら買い、上のラインは価格上昇の値幅を予想するために引く。
【Pick up3】変動率の確認
複数の株価チェックは一覧を表示させて毎日監視する。変動率が大きい銘柄はチャートで分析したり、ファンダメンタルズを見たりして、変動が大きい理由を探る。
FX雑誌「外国為替」vol.13
発売:2024年10月22日(火)
定価:980円(本体891円)